学会通信(最新号)

学会通信 第54号(2017年11月)

第41回総会・研究大会報告

日本イギリス哲学会第41回総会・研究大会は、2017年3月27日(月)・28日(火)の両日、南山大学名古屋キャンパスにて開催された。開催校責任者の奥田太郎理事および南山大学のスタッフの皆様に支えられ盛況であった(参加者115名)。

1日目午前の総会では、会長挨拶、開催校挨拶に続いて、議長に平山洋会員が選出され、各種議案の審議が滞りなく進んだ。また、第9回日本イギリス哲学会奨励賞の発表がおこなわれ、梅澤佑介会員、豊川祥隆会員に対して賞の授与がおこなわれた。総会に続いて、成田和信会長による会長講演「欲求充足と幸福」がおこなわれた。
1日目午後には、シンポジウムⅠ「近代寛容思想の射程とその意義」(司会:梅田百合香・関口正司、報告者:川添美央子・下川潔・山岡龍一)が開催された。近年の世界情勢のなかでますます重要性を増しつつある寛容思想について活発な議論がなされ、本学会ならではのシンポジウムとなった。

1日目の大会終了後、南山大学リアンカフェにおいて懇親会がおこなわれ、研究にとどまらない様々な話題に話の花が咲き、会員相互の親睦が深められた。2日目午前には、7名の会員による個人研究報告がおこなわれ、いずれの報告でも活発な議論がおこなわれた。2日目午後は、シンポジウムⅡ「功利主義と人間の尊厳」(司会:奥田太郎・児玉聡、報告者:小畑俊太郎・山本圭一郎・中井大介)がおこなわれた。近現代のイギリス思想における大きな潮流である功利主義思想と人間の尊厳の観念の関係をめぐる学際的な議論がなされ、質疑応答もふくめて熱のこもったシンポジウムとなった。


第9回日本イギリス哲学会奨励賞・選考結果

伊勢 俊彦(選考委員長)

2016年9月24日、東洋大学にて開催されました「日本イギリス哲学会奨励賞」選考委員会において、下記の二論文を第9回「日本イギリス哲学会奨励賞」の受賞作とすることに決定しましたので、ここに報告いたします。

・梅澤佑介(うめざわゆうすけ)
「市民の義務としての反乱――ハロルド・ラスキによるT・H・グリーンの批判的継承」
(『イギリス哲学研究』第39号掲載論文)

・豊川祥隆(とよかわよしたか)
「ヒュームの関係理論再考――関係の印象は可能か」
(『イギリス哲学研究』第39号掲載論文)

今年度は、奨励賞への一般応募論文はなく、『イギリス哲学研究』第39号掲載論文の中から、資格要件を満たす三編が候補作となりました。本委員会では、候補作のそれぞれについて、(1)論述の説得力、(2)論述方法の堅実さ、(3)先行研究への目配り、(4)議論の独創性、(5)将来の研究への発展の可能性等について慎重な検討を行い、梅澤氏と豊川氏の上記二論文が本年度の受賞作にふさわしいとの結論に達しました。

まず梅澤氏の論文は、ラスキが、イギリス観念論を徹底的に批判する反面で、イギリス観念論の提唱者であるグリーンから「抵抗の義務」の観念を受け継ぎ、「反乱の義務」として主張していることに着目します。そして、ラスキによる「一元的国家論」から「多元的国家論」への転回が、グリーンの主権論を批判しながら、主権と抵抗についての新たな考え方のなかに「抵抗の義務」を位置づけ再生する試みを軸とするものであると指摘します。グリーンとラスキは、ともに主権の基礎を強制力ではなく被治者の意志に見出します。グリーンは、国家と被治者が道徳的に一体であることを前提としながら、抵抗を、国家が本来の目的から逸脱した場合に、あるべき国家のあり方を取り戻す市民の義務として構想します。これに対し、ラスキは、政治の次元と倫理の次元を区別することによって、国家の強制力による同意なき支配の可能性に目を向ける一方、国家以外の諸団体も、被治者の意志にもとづく主権性を認める多元的国家論を提唱し、市民に、国家との道徳的一体性に回収されない批判(「反乱」)の役割を課します。本論文は、これまで注目されてこなかったグリーンとラスキの批判的継承関係が、ラスキの多元的国家論の形成において果たした役割を明らかにした、思想史研究に対する重要な貢献と言えます。他方、委員会では、タイトルに掲げられた「反乱」が論文のまとめの部分で後景に退き、やや不明確な締め括り方になっているという、叙述方法の欠点も指摘されました。

次に豊川氏の論文は、観念の十全さの基準を、そのもとになる印象への遡上によって求めようとするヒュームの特徴的論法を複合観念の一種とされる関係の観念に当てはめるとき、いかなる解決が可能かを検討します。まず、関係の観念を構成するものとして、関係づけられる対象に加えて、関係を成立させる事情が必要であるとされ、ヒューム自身は明示的に論じていないとしても、そのもとになる印象についての問いが不可避であると述べられます。ヒューム自身の議論の中で、関係の印象への問いに最も近づいていると思われるのが、必然的結合の観念が、心の被決定の印象に由来するとする議論ですが、この議論の検討は、逆に、関係の把握が多くの場合にはっきりした感じを伴わないこと、また、心の被決定の印象に由来する観念が、いかにして必然的結合を表象するような内容を持ちうるのかという問いを提起します。これらの問いに対しては、関係の観念の場合には、印象を直接提示することによって観念を明晰化するというより、観念が見出される経験の提示によって観念の表象内容の確認を可能とするという方略をとるべきであり、そのさい、心の被決定のようなある感じがあれば、その経験を指示するための印として機能するであろうし、そのような感じがない場合も、穏やかな情念に類する印象を想定することができるという解決が提案されます。委員会では、例えば存在の観念や信念については、存在する対象や信じられる対象の観念と別個の知覚はないとされており、関係の観念についても同様の議論が可能ではないかという、本論文の問題設定に対する疑問も出されましたが、主張の鮮明さと議論の明解さを評価する意見が多数を占めました。

このように両論文については欠点の指摘や内容についての疑問もありましたが、いずれも斬新な問題設定で独自の論点を打ち出しており、さらなる研究についてその発展を奨励するに値するという結論に委員会として達し、二論文をともに受賞作にすることといたしました。


第42回総会・研究大会について

第42回総会・研究大会は、2018年3月28日(水)・29日(木)の両日、武蔵野大学有明キャンパスにて行われます。同大学には、青木裕子会員が所属され、大会開催校責任者としてご尽力いただいております。

1日目には、総会、記念講演、公募セッション、シンポジウムⅠ「イギリス哲学研究とデジタルヒューマニティーズ――思想史の事例を手がかりに」(司会:犬塚元・梅田百合香、報告者:福田名津子・壽里竜)、2日目には、個人研究報告(13名)、シンポジウムⅡ「近代日本とイギリス思想――「明治150年」をめぐって」(司会:岩井淳・下川潔、報告者:平山洋・山田園子・深貝保則が予定されています。また、1日目夕刻に懇親会が開催されます。

詳細については2018年2月のプログラム送付の際にご案内いたします。


個人研究報告と論文の公募のお知らせ

各種の公募は、例年、以下のようにおこなわれます。希望者は下記の要領で期日までに申し込んでください。

(A)各部会研究例会報告
申込締切 各部会研究例会の3ヶ月前
報告時間 60分
申込先  各部会担当理事または事務局
*2016-2017年度部会担当理事
関東:伊藤誠一郎、矢嶋直規
関西:久米 暁、竹澤 祐丈

(B)研究大会個人研究報告
申込締切 9月15日(消印有効)
報告時間 35分、質疑応答15分
申込先  事務局
申込方法 報告要旨(報告要旨(題目・氏名・所属を除いて1600字以内、英語の場合は 390 words以内)を添えて、メール(添付ファイル)または郵送)

(C)『イギリス哲学研究』掲載論文
申込締切 6月30日(消印有効)
申込先  事務局
申込方法 オンライン(2018年度の公募論文のオンライン申し込み方法については現在検討中ですので、決定次第HPに掲載します)

公募要領・執筆要領については、『イギリス哲学研究』最新号の「『イギリス哲学研究』執筆に関する諸規定」に従ってください。
公募論文は、匿名の査読者2名により審査されます。査読者は、編集委員会が編集委員を除く会員のなかから選出し、応募者名を伏せて秘密厳守のうえ審査を依頼しています。よって、応募者名、 論文名、査読者名は、編集委員会と事務局以外には非公開となっています。編集委員は、応募者にも査読者にもなれません。査読者の審査結果に基づいた編集委員会の判断により、理事会において掲載論文を決定後、投稿者に審査結果を通知いたします。


事務局より

会費納入のお願い

会費未納の方は、本年12月末までに振込をお願いいたします。年会費は6,000円です。2年分(12,000 円)以上の未納の場合には、来年3月末の学会誌の送付が停止され、役員選挙の選挙権・被選挙権を失います。更に、5年分(30,000 円)以上の滞納の場合には、自然退会となります。くれぐれもご注意ください。

役員(理事・会計監査)選挙結果について

選挙管理委員会のご尽力により、滞りなく開票が行われ、当選理事15名と会計監査2名、さらに当選理事の推薦による10名の理事も決定されました。前回よりも有効投票総数が27%程度増加しました。次回も皆様の積極的なご投票をお願いいたします。

今後の学会運営について

試験的に運用しております学会メーリング・リストの本格的な稼働に向け、準備が進んでおります。電子化委員会のご尽力により、バックナンバーを含む学会誌の電子化の作業も進んでおりますので、遠くない時期に皆様にもご利用いただけるかと思います。(太子堂)