学会通信

学会通信第53号(2016年11月)

新会長挨拶

第 21 期の会長を務めることになりました。どうぞ宜しくお願い申し上げます。

本学会が創設されてから今年で 40年になります。それを記念して、坂本達哉前会長を中心にした前期理事会の議論をへて、新たに「日本イギリス哲学会賞」が設立されました。その目的は、本学会員のイギリス哲学に関する優れた研究業績を顕彰するとともに、本学会に対する社会的認知度の向上をめざすことにあります。この賞の第1回目の審査のために、この夏に会員の皆さまから推薦を募りました結果、四つの著作が推薦されました。いずれも、本学会員の研究の水準の高さを示す優れた著作です。すでに、選考委員会を組織し、再来年3月の会員総会での選考結果の発表をめざして、選考が開始されております。また、創立40周年事業としては、この他に、本年3月の学習院大学での研究大会において、「イギリス哲学研究の21 世紀」というシンポジウムと、会員の皆様からの公募による四つのシンポジウムが実施され、いずれも成功裏に終わりました。

ご承知のように我が国では、人文社会系の学問の研究ならびに教育は、ますます厳しい状況に追い込まれつつあります。とくに、哲学、思想、歴史、文学、芸術などの分野は、大学教員数や予算の削減、学部の統合など、さまざまな形での縮小をせまられ、これまでの研究の成果を維持発展させ、そ れを多くの学生に教育を通じて伝えていくことが難しくなってきております。このようなことは、ものごとをその根本的な原理まで遡って深く考察する態度や、既存の見方や「常識」をさまざまな視点から検討しなおすという姿勢を、人々から奪ってしまい、その結果、社会がより良い方向に進むことを阻むことに       なるのではないかと危惧しております。このような状況を鑑みますと、本学会の活動を通して、思想、歴史、文学、芸術など含めた大きな意味でのイギリス哲学に関する我が国における研究を少しでも活性    化し、その成果をさまざまな仕方で発信していくことは、その重要性を増していると思われます。その意       味でも、まずは、新設された「日本イギリス哲学会賞」を軌道にのせ、会員の皆さまがなるべく多く参加してくださるような研究大会の在り方を模索することに努めてまいりたいと思っております。

ただ、現在の学会事務の業務方法を変えないかぎり、学会の活動を活性化するための事業が増えれば、事務局の負担が増えることにもなります。今期は、太子堂正称事務局長、板井広明幹事、川名雄一郎幹事の献身的な努力によって、事務局が運営されていますが、学会事務業務を遂行するために事務局担当会員の貴重な研究時間が大幅に削られていることもたしかです。したがって、学会の活    動の活性化を図りながら、同時に事務局の事務量を少しでも軽減することが重要であると考えておりま す。

以上のことを心にとどめながら、会長として微力ながら力を尽くしてまいりたいと思っておりますので、  会員の皆さまには、ご協力とご支援のほど宜しくお願い申し上げます。

第39回総会・研究大会報告

日本イギリス哲学会第40 回総会•研究大会は、2016 年3 月28 日(月)•29 日(火)の両日、学習院大学目白キャンパスにて開催された。開催校責任者の下川潔理事および学習院大学 のスタッフの皆様に支えられ盛況であった(参加者 86 名)。

1日目午前の総会では、会長挨拶、開催校挨拶に続いて、議長に星野勉会員が選出され、各種議案の審議が滞りなく進んだ。 総会に続いて、酒井潔学習院大学教授による記念講演「ライプニッツにおける『正義』の概念」がおこなわれた。

1 日目午後には、シンポジウムI「イギリス哲学研究の 21 世紀」(司会:只腰親和、柘植尚則、岩井淳、報告者:神野慧一郎、泉谷周三郎、田中秀夫、坂本達哉)が開催された。学会創立 40 周年を記念したこのシンポジウムでは、世代をこえて活発な意見交換がおこなわれ、イギリス哲学研究や学会のあり方について考える貴重な機会となった。

1日目の大会終了後、学習院大学創立百周年記念会館内で懇親会がおこなわれ、 研究にとどまらない様々な話題に話の花が咲き、会員相互の親睦が深められた。

2日目午前には、5 名の会員による個人研究報告がおこなわれ、いずれの報告でも活発な議論がおこなわれた。2 日目午後には、まず臨時総会が開催され、10 名の指名理事、および新理事によって互選された新会長がそれぞれ承認された。

その後、シンポジウムIIとして、学会創立 40 周年を記念し公募によって選ばれた以下の 4 つのシンポジウムが並行しておこなわれた。(i)「イギリス経験論とは何なのか 『ロック、バークリ、ヒューム』の系譜」(司会:伊勢俊彦、一ノ瀬正樹、報告者:青木滋之、中野安章、田村均)、(ii) ‘Hume on the Ethics of Belief ‘ (司会:渡辺一弘、報告者:Hsueh Ou、萬屋博喜、Axel Gelfert)、 (iii)「イギリス思想における常識と啓蒙の系譜 18 世紀スコットランドから 20 世紀ケンブリッジヘ」(司会:青木裕子、報告者:片山文雄、大谷弘、野村智清)、(iv)「イギリスの複  合国家性と近代社会認識ー 歴史叙述を中心に」(司会:竹澤祐丈、報告者:竹澤祐丈、森直人、木村俊道、佐藤一進)。会員の多様な研究テーマ•関心を反映したさまざまなトピックに ついて密度の濃い報告•質疑応答がおこなわれ、学会創立  40  周年にふさわしい企画となった。

第41回総会・研究大会について

第41 回総会•研究大会は、2017 年 3 月 27 日(月)•28 日(火)の両日、南山大学名古屋キャンパスにて行われます。同大学には、奥田太郎理事が所属され、大会開催校責任者としてご    尽力いただいております。

1  日目には、総会、会長講演、シンポジウムI「近代寛容思想の射程とその意義」(司会:関口正司、梅田百合香、報告者:I添美央子、下I潔、山岡龍一)、2日目には、個人研究報告(3 会場、7 名)、シンポジウムII「功利主義と人間の尊厳」(司会:児玉聡、奥田太郎、報告者:小畑俊太郎、山本圭一郎、中井大介)が予定されています。また、1日目夕刻に懇親会が開催されます。

会場、参加申込等の詳しい内容については、2017 年 2 月のプログラム送付の際にご案内いたします。

第8回日本イギリス哲学会奨励賞・選考結果

一ノ瀬 正樹(選考委員長)

2015 年9 月19 日、慶應義塾大学で開催されました日本イギリス哲学会奨励賞選考委員会におきまして、2015 年度の日本イギリス哲学会奨励賞の候補作の論文 2 点につき、論文の独創性、論旨の明快さや説得性等の観点から慎重かつ厳正に審議いたしましたが、該当作なしという結論に達しましたので、ここにご報告申し上げます。

個人研究報告と論文の公募のお知らせ

各種の公募は、毎年、以下のように行われます。希望者は下記の要領で期日までに申し込んでください。

(A)各部会研究例会報告
申込締切 各部会研究例会の3ヶ月前
報告時間 60分
申込先  各部会担当理事または事務局
*2016-2017年度部会担当理事
関東:伊藤誠一郎、矢嶋直規
関西:久米 暁、竹澤 祐丈

(B)研究大会個人研究報告
申込締切 9月15日(消印有効)
発表時間 35分、質疑応答15分
レジュメ 1600字以内(題目・氏名・所属を除く)、英語の場合は390ワード以内
申込先  事務局
申込方法 メール(添付ファイル)または郵送

(C)『イギリス哲学研究』掲載論文
申込締切 6月30日(消印有効)
申込先  事務局
申込方法 郵送

公募要領•執筆要領については、『イギリス哲   学研究』最新号の「『イギリス哲学研究』執筆に関する諸規定」に従ってください。

応募論文の審査は以下のようにおこなわれています。応募論文は、匿名の査読者 2 名により審査されます。査読者は、編集委員会が編集委員を除く 会員のなかから選出し、応募者名を伏せて秘密厳守のうえ審査を依頼しています。よって、応募者名、 論文名、査読者名は、編集委員会と事務局以外には非公開となっています。また、編集委員は、応募者にも査読者にもなれません。採否は査読者の審査結果に基づいた編集委員会の判断により、理事 会において掲載論文を決定後、投稿者に結果を連絡いたします。

井上公正会員の死を悼む

神野  慧一郎(大阪市立大学名誉教授)

本学会名誉会員井上公正会員は、昨年2015 年8 月1 日逝去された。最近の若い会員の方々は、井上会員をよく御存じでないかもしれないが、かれこれ 30 年ほどお付き合いをしてきた私のようなものにとっては、井上会員がこの世を去られたことは一つの衝撃である。というのも、故人がつい最近まで御老齢にも拘わらず(御生誕は  1921  年)、本学会の大会のみならず地方部会(関西部会)にも、少し体調の良くないときでも愚痴を言うでもなく、静かに出席しておられたことは、敬愛すべき故人のお人柄、     すなわち自らの志すところへむかってたゆまず努力する誠実なお人柄を如実に示すものであり、まさに以て範とすべきであると常々思っていたからである。

井上会員は本学会創設時以来の会員であり、1984 年から1992 年まで本学会の理事を務めて頂き、2003 年には名誉会員に推挙されておられる。

職歴は、東北大学卒業の 1949 年 7 月の名古屋大学文学部助手に始まり、1953 年に奈良女子大学文学部講師として関西に移られ、以後は同大学で、助教授ついで教授として勤務され、1984 年 3 月定年退官された。その後も奈良大学で教鞭をとられ、また皇学館大学にも参与としてお勤めになられ   た。

井上会員はほぼ一貫してジョン•ロックの寛容論の研究に一生を捧げられたが、名古屋大学時代に    は、ルネサンス•ヒューマニズムやプラトンの国家論の研究も行っておられる。これらの研究は、しかし、    ある一貫性に基づいており、主著である『ジョン•ロックとその先駆者たち      イギリス寛容論研究序説 』(1978)に反映されている。すなわち、この著書の第一章は、「トマス•モアの寛容論」であり、ヒューマニストの寛容論を取り上げたものである。そして議論はイギリスにおける宗教改革と寛容の問題、ついで  17  世紀前半の寛容思想、そしてロックの寛容論へと展開されている。

イギリスにおける寛容論はもちろん宗教上の寛容論がその源流であろうが、しかし寛容論は、人間の自由の問題と無関係ではない。この点についての故人の見解は、おそらく退官時の最終講義の草稿と    思われる論考、「ロックの「自由」論に関する一考察」(『研究年報』28、奈良女子大学、1984)に述べら    れている。故人は、ロックの自由論の要とも言うべき、」七つの概念を取り出している。「力能」、作用力能がindifferency(志向可能的中立)の状態にあること、欲望がある意味で意思の決定に関わるというこ と、理知、理知に基づく意志の自由、天賦の権利(一切の国家権力に先立って存在する権利)、国家  権力の恣意的干渉の抑止などの概念分析がそれである。そして、この分析の最後の点は、主著「はしが    き」冒頭に述べられているご自身の経験(社会主義者ではないかという不当な嫌疑により自由の国、米   国へのヴィザが得られなかった)に関係がある。

温厚にして篤実、しかも一貫した思索を貫徹された誠実な井上名誉会員の死去は、私の人生をまた      更に寂しいものとした。

山下重ー先生の死を悼む

泉谷  周三郎(横浜国立大学名誉教授)

山下重一先生は、2016 年 4 月 1 日に胃ガンで亡くなられた。享年 90 歳。先生は、2014 年 4 月に脳梗塞で倒れ、左半身に麻痺が残ったが、奇跡的に自宅で読書と執筆ができるまでに回復された。昨年暮、「脳梗塞で倒れたが、執筆活動ができるようになったのでお会いしたい」との御手紙をいただき、2016 年 1 月 4 日の午後、三鷹の先生宅で 2 時間半ほど話し合うことができた。そのとき、先生の研究意欲はきわめて旺盛であっただけに、その死が惜しまれる。

山下先生は、1944年に東京大学経済学部に入学し、卒業後、法学部の政治学科に学士入学し、1951 年法学部を卒業し、都立石神井高校の教諭となった。1965 年 4 月、國学院大学の法学部の助教授となり、政治思想史や西洋政治史などを担当した。清廉で温厚な人柄で、院生や学生を指導しながら、イギリス近代の政治思想と日本におけるそれらの受容を可能な限り深く理解しようと努めてこられた。山下先生は、政治思想研究を深める継起となったものとして、1973 年 5 月にトロント大学で開催された「ミル父子記念学会」に甲南大学の杉原四郎先生と一緒に参加し、ロブスン教授、ハンバーガー教  授らと知り合ったこと、わが国においてもミル研究者の交流のために定期的な研究会を開催することの必要性を痛感したことなどをあげている。杉原先生と山下先生により1975 年に「ミルの会」が生まれた。また両先生は、編者として『J.S.ミル初期著作集』全 4 巻を計画し、刊行された。山下先生は、1980 年から日本哲学会の常任理事となり、研究大会の企画や学会誌の編集などを担当しながら、学会では司      会や報告者として活躍された。

山下重一先生の主要な研究業績としては、『J.S.ミルの政治思想』(木鐸社)、『ジェイムズ•ミル』(研究社出版)、『J.S.ミルとジャマイカ事件』(御茶の水書房)、訳書『評註  ミル自伝』(御茶の水書房)、論文「J.S.ミルの1830年代における思想形成と政治的ジャーナリズム(1)(2)(3)」(『國学院法学』)、「中村敬宇訳『自由之理』(1)(2)(3)」(『國学院法学』))などがあげられる。山下重一先生は、学会員がこれらの研究業績を生かして、それぞれの研究を深めることを切に望んでいたように思われる。

事務局より

ご挨拶

本年 4 月より、本学会の事務局が大月短期大学より東洋大学に移りました。約10年ぶりの事務局担当で不慣れな点も多数ございますが、少しでも会員の皆様 の便宜となり、円滑な学会運営ができますよう引き続き努力してまいります。皆様方のご協力を賜りますようお願いいたします。

会費納入のお願い

会費未納の方は、本年 12 月末までに振込をお願いいたします。年会費は 6,000 円です。なお、2 年分(12,000 円)以上の未納の場合には、来年 3 月末の学会誌の送付が停止され、役員選挙の選挙権•被選挙権を失います。さらに、5 年分(30,000 円)以上の滞納の場合には、自然退会となります。くれぐれもご注意ください。

理事および会計監査選挙について

役員選挙の日程変更が第 167 回理事会で承認されました。次回(2018-2019 年度役員選出)より、投票締切が改選年度前年の 7 月下旬に早まります。選挙関連書類は 6 月上旬に発送予定です。なお、会計監査について、監査や監事の名称も使われておりましたが、今後は会計監査で統一することになりました。

今後の学会運営について

学会誌につきましては、バックナンバーの電子化、学会 HP での閲覧のための作業が進んでおります。また、将来的には「学会通信」「総会•研究大会プログラム」

「部会研究例会案内」などの資料も電子ファイルで提供させていただき、紙媒体での送付を原則として廃止 するといった案も検討されておりますこと、お知らせ申し 上 げ ま す 。

バックナンバー

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