学会通信(最新号)

学会通信 第56号(2019年11月)

柏經学先生を偲んで

柏經学先生は、2017年9月に急逝されました。享年93歳。

J・S・ミル研究で広く知られる先生は、九州大学法学部政治学科をご卒業後、アメリカ・テキサス州のベイラー大学政治学部大学院で修士号を取得され、1971年から23年間にわたり福岡大学法学部で教鞭をとられました。1979年には、「J・S・ミルの政治思想研究─初期および中期におけるミルの基本思想形成過程を中心として─」により九州大学から法学博士の学位をえられました。先生は、ミルの思想を、同時代のフランス政治思想との影響関係や比較分析の観点から議論されると同時に、特にミルの宗教思想の分析を中心に、19世紀イギリスの政治思想を幅広く考究されてきました。

日本イギリス哲学会では、1982年から1994年の12年間にわたって理事、そして九州地区の代表として学会運営の重責を担われ、後進の育成に尽力されました。

また学会の記念行事である『J・S・ミル研究』(日本イギリス哲学会監修、杉原四郎ほか編、イギリス思想研究叢書第9巻、御茶の水書房、1992年)へも寄稿され、ミル研究の振興に傾注されました。

先生の多年のご活躍に感謝申し上げると同時に、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

(事務局)

第一回海外部会(”UK-Japan Special Conference: Aspects of Early Modern British Philosophy”)を開催して

日本イギリス哲学会では、2018年11月の理事会において、新たに「海外部会」という活動ジャンルを導入することが決まった。関東・関西部会と同様なジャンルであり、毎年の研究大会時のセッションと同じように、会員の自発的提案によって開催・運営される。この新システムにしたがって、第一回の海外部会を、2019年9月11日と12日の二日間、イギリスOxford大学のSt Peter’s Collegeにおいて開催した。「近代前期イギリス哲学の諸側面」と題して、日本側から5名、イギリス側から5名の、計10名の提題者によって構成される研究会議であった。オーガナイズは、Oxford大学のPeter Kail教授、St Andrews大学のJames Harris教授、そして私一ノ瀬が務めた。Locke、Shaftesbury、Berkeley、Humeらの哲学について、新しい見地から研究発表が行われた。少人数による濃密なディスカッションがなされた研究会議で、様々な意味において画期的かつ有意義なイベントとなった。内容に少し触れた報告は『イギリス哲学研究』において行う予定である。強調すべきは、日本イギリス哲学会が、まさしくイギリスの地において、彼の地の研究者と交差した海外部会を実際に開催した、という事実の重みである。当学会の活動履歴として、新しい色の頁が付け加えられたのである。次の海外部会の開催可能性もすでに示唆されており(計画が実現すれば、おそらく場所はSt Andrews大学となるであろう)、日本イギリス哲学会はいよいよ未来ゾーンに突入したのである。

第43回総会・研究大会報告

日本イギリス哲学会第43回総会・研究大会は、2019年3月29日(金)・30日(土)の両日、広島国際大学広島キャンパスにて開催された。開催校責任者の村上智章会員や学生スタッフの熱心なサポートもあり、充実した大会となった(参加者107名)。

1日目午前の総会では、会長挨拶、開催校挨拶に続き、議長に新茂之会員が選出され、各種議案の審議が滞りなく進められた。総会の後には、一ノ瀬正樹会長による講演 ‘Williamson on Thought Experiments’ が行われた。

1日目午後には、2つのセッションが並行して開催された。セッションⅠ「アイザイア・バーリン研究の現在」(司会:高田宏史、報告者:小田川大典・山岡龍一、討論者:濱真一郎・森達也)では、バーリンをめぐる最新の研究動向も踏まえつつ、規範的政治理論と政治思想史の関係、さらに現実の政治・社会問題への応答可能性を中心に活発な議論が行われた。セッションⅡ「18世紀イギリスの知覚論と常識の関係性」(司会:萬屋博喜、報告者:山川仁・豊川祥隆・中元洸太)では、「常識common sense」の概念をめぐるバークリ、ヒューム、リードの所論が検討され、フロアとの間でも緊張感あふれる議論が行われた。

これに続いて夕方には、シンポジウムⅠ「蘇るフィルマー──近代社会哲学の源流再考――」(司会:青木滋之・小林麻衣子、報告者:古田拓也・小城拓理)が開かれた。フィルマーとその批判者ロックの思想に関する報告に対し、両者の思想をどのように研究し、その意義をどう捉えるべきか、踏み込んだ質疑応答が行われた。

1日目終了後、広島キャンパス最上階の幟町カフェにて懇親会が行われた。広島の街の夕景を眺め、あるいはバラエティ豊かな地酒を楽しみつつ、初日の議論を振り返り、研究の動向を話し合う和やかな交流の場となった。

2日目午前の個人研究報告は、12名の会員による発表となり、例年にも増して充実したものとなった。2日目午後は、シンポジウムⅡ「ケインズ・ウィトゲンシュタイン・ハイエク――不確実性の時代の秘められた知的連関――」(司会:久米暁・佐藤方宣、報告者:小峯敦・大谷弘・太子堂正称)において、不確実性をめぐる3者の認識が報告され、その内容が多面的に議論された。

なお、大会終了後の31日(日)には、エクスカーション企画が行われた。当日の模様については、次の鎌田厚志会員による報告を参照されたい。

「エクスカーション企画―2019.3.31 被爆者による被爆体験講話―」記録

鎌田厚志

広島国際大学で3月29・30日に開催された日本イギリス哲学会第43回研究大会の翌日31日に、エクスカーション企画として被爆体験講話を聞く機会が持たれました。場所は広島平和記念公園の中の追悼平和祈念館の一室で、被爆者の語り部である朴南珠(パク・ナムジュ)さんの御話を聞きました。朴さんは在日韓国人二世で、生々しい被爆体験とともに、戦中・戦後を必死に生きた思い出話や、親族の方々が体験した「朝鮮動乱」(朝鮮戦争)についての貴重な御話を、長時間に渡りしてくださいました。このように直接の体験談を聞くことはこれから先、めったになくなっていくことを考えれば、本当に稀な機会だったと思います。私たちがこの21世紀の時代に“sense of reality”を持ち続け、人間としての正気を保つためには、どうすれば良いか。今回の研究大会およびエクスカーション企画では、そのことについて深く考えさせられると共に、その大きな手がかりを与えられたことを、主催者の村上智章先生に心より感謝いたします。

第11回日本イギリス哲学会奨励賞選考結果

坂本 達哉(選考委員長)

2018年9月22日、慶應義塾大学で開催された「日本イギリス哲学会奨励賞」選考委員会において、日本イギリス哲学会奨励賞の候補となった2論文につき、問題設定の独創性、論理展開の明確さ、結論の説得力等の観点から、厳正に審議しました。その結果、いずれも力作ではあるが、本奨励賞が求める水準から見た場合、いくつかの点で改善の余地があると認められたため、本年度は、残念ながら、「該当作なし」という結論に達しましたので、ここにご報告申し上げます。

第44回総会・研究大会について

第44回総会・研究大会は、2020年3月21日(土)・22日(日)の両日、日本大学商学部(東京都世田谷区)にて行われます。同大学には瀧田寧会員が所属され、大会開催校責任者としてご尽力いただいております。

1日目には、総会、記念講演、2つのセッション、シンポジウムⅠ「イギリスにおけるジェンダー論のルーツ」(司会:犬塚元、報告者:舩木惠子・小川公代)、2日目には、個人研究報告(10名)、シンポジウムⅡ「イギリス哲学・思想と市民教育」(司会:岩井淳・木村俊道、報告者:平石耕・柘植尚則・奥田太郎)が予定されています。また、1日目夕刻に懇親会が開催されます。

詳しくは、2020年2月のプログラム送付の際にご案内いたします。

事務局より

ご挨拶

現在の事務局体制は2年目の後半に入り、そろそろ次期事務局への引継ぎも視野に入れながら作業を進める時期になりました。ミスをしないように注意しながら、学会本来の学術活動に傾注できるような学会体制と、それを支える事務局体制を少しでも整備したいと思います。それには会員のみなさまのご理解とご協力が不可欠です。どうぞよろしくお願いいたします。

会費納入のお願い

会費未納の方は、本年12月末までに振込をお願いいたします。年会費は6,000円です。2年分(12,000 円)以上の未納の場合には、来年3月末の学会誌の送付が停止され、役員選挙の選挙権・被選挙権を失います。更に、5年分(30,000 円)以上の滞納の場合には、自然退会となります。くれぐれもご注意ください。