学会通信(バックナンバー)

注記:39号(2002年)から52号(2015年)までのバックナンバーはこちら。バックナンバーの本Webサイトへの統一作業を順次進めています

学会通信 第57号(2020年11月)

新会長挨拶

第23期の会長を務めることになりました柘植でございます。2年間、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

ご承知のとおり、新型コロナウィルス感染症の流行のため、今年3月に開催予定の第44回総会・研究大会が延期になりました。その後、総会は4月に書面で実施され、研究大会のうち、個人研究報告とセッションは9月に学会ホームページで公開されました。そして、シンポジウムは来年3月の第45回研究大会で実施されることになり、第45回総会・研究大会はすべてオンラインで開催されることになりました。また、部会についても、7月の研究例会は中止になり、12月の研究例会はオンラインで開催されることになりました。

本学会に限らず、感染症の流行は、学会のあり方を大きく変えるものと思われます。新旧の理事会・委員会・事務局では、経験したことのない、先の見えない状況で、業務の大幅な変更や抜本的な見直しを含め、感染症の流行に対応してきました。現在は、引き続き対応に当たるとともに、本学会の今後のあり方について、中長期的な検討を始めたところです。会員の皆様におかれましては、本学会の現状にご理解いただくとともに、本学会の今後のあり方についてご意見を頂きますよう、お願い申し上げる次第です。

また、本学会の今後のあり方に関わって、少し先の話になりますが、本学会は2026年に設立50周年を迎えます。これまで、本学会は、研究大会・部会研究例会の開催、学会誌の刊行に加えて、「イギリス思想研究叢書」の監修、「イギリス思想叢書」の企画、『イギリス哲学・思想事典』の編集、学会奨励賞や学会賞の創設、周年記念シンポジウムや海外部会の実施など、様々な事業を行い、特色ある人文・社会科学系学術団体として、確固たる地位を築いてきました。これもひとえに会員の皆様のご尽力によるものと存じます。

設立50周年に向けて、また、その先の50年を見すえて、本学会がさらに発展するために、どのような事業を行うべきか、考える時期が来たように思われます。感染症の流行への対応に追われている現状では、大きな事業をすぐに始めることはできませんが、このような状況だからこそ、また、近年の人文・社会科学への逆風に抗うためにも、学会の総力を結集した事業を考える必要があるかと存じます。会員の皆様におかれましては、新たな事業についてアイデアをお寄せくださいますよう、宜しくお願い申し上げます。

末筆ながら、通常の業務に加え、感染症の流行への対応に献身的にご尽力くださっている、事務局・理事の皆様に、この場を借りて、厚くお礼申し上げます。

田中正司先生を悼む

只腰親和(中央大学経済学部)

本学会の名誉会員で横浜市立大学名誉教授の田中正司先生は、2020年1月26日に95歳で亡くなられました。

田中先生は東京商科大学を卒業後まもなく母校である横浜市立大学に奉職され、その後、一橋大学、神奈川大学で教授を務められました。

先生の研究の出発点は、近代から20世紀中ごろまでの自由の問題を思想史的に考察した『現代の自由』(1964)でしたが、学界に広く知られるようになったのは、『ジョン・ロック研究』(1968)からだったと思います。この書物は、社会科学の分野で旧来あつかわれる際にはホッブズやルソーとの関連で政治思想史の上で捉えられていたロックを、自然法認識と所有論を二本柱にして、アダム・スミスへと向かう市民社会思想の流れで考察した点に特色があります。研究手法は、一次文献を質量ともに厳密に考証することはもちろん、二次文献も丹念に渉猟する、言うべくして実行が容易でないオーソドックスな手法でしたが、そこで培われた研究スタイルは最晩年まで変わることはなく、先生の大きな強味となりました。

上の書物についで同じくロックを主題にした『市民社会理論の原型』(1979)を上梓しましたが、この書物は、前著より一層ロック―スミスの連関を明示的・暗示的に意識したロック研究で、先生がその後、スミスを本格的に研究するようになる架橋的な役割を果たしていると言えます。

こうした研究を経て『アダム・スミスの自然法学』(1988)、『アダム・スミスの自然神学』(1993)、『アダム・スミスの倫理学 上・下』(1997)、『経済学の生誕と「法学講義」』(2003)等つぎつぎにアダム・スミスに関する研究書を世に問うことになります。この間、国の内外でのスミス研究は盛んで汗牛充棟をなす感がありますが、そうした環境の中でわが国のスミス研究において一貫して重きをなした先生の研究の特徴は以下のような点にあったと思います。

スミスは狭義の経済学者ではなく道徳哲学者であり、終生の課題を「法と統治の一般的原理」の探求にあると述べていますが、田中先生は、スミスのこの言葉に忠実にスミス研究に取り組んでこられました。上に列挙した先生の諸著作がそれを雄弁に物語っていますが、先生の研究者としての後半生は、スミス自身の学問の歩みとともにあったと言えるのではないでしょうか。

本学会との関連では、この学会の創立に関与した会員のひとりとして学会運営に尽力され、1990年から2年間、会長を務められました。学際的な学会である本学会にふさわしく先生のカバーする領域は経済学、政治学、哲学、倫理学等と広かったので、先生から示唆や助言を受けた会員も少なくなかったと想像されます。

先生は亡くなられる直前に『アダム・スミスの自然法学』増補第3版を公刊されましたが、90歳を過ぎてなお病床でそれを完成されたことに先生の学問生活が集約されているように思います。

第2回日本イギリス哲学会賞選考結果

選考委員長 成田和信(慶応義塾大学)

2019年9月16日に開催されました「日本イギリス哲学会賞」選考委員会において、下記の著作を第2回日本イギリス哲学会賞受賞作に決定しましたので、ここに報告いたします。

佐々木拓『ジョン・ロックの道徳哲学』(丸善出版、2017年)

本書は、ロックが、『人間知性論』で展開した三つの議論、(1)道徳が論証可能であるというテーゼを擁護する議論、(2)自由と必然に関わる議論(著者は、これを「ロック自由論」と呼ぶ)、(3)人格の同一性に関する議論を検討し、そこからロック自身が実際には構築しなかったけれども構築しえたと思われる道徳哲学の体系を提示し、それが現代的意義をもつことを論じた意欲的な著作です。

従来の研究は、ロック政治哲学の土台をなすと思われる規範的倫理学を初期の『自然法論文』のなかに探し求める場合でも、また彼のメタ倫理学を論証可能な道徳のテーゼに見出す場合でも、おおむね、ロックは十全な倫理学の体系をもっていなかった、という主張を繰り返してきました。ところが本書は、上記の三つの議論を考察し統合することによって、ロックの倫理学つまり道徳哲学を拡張的に再構成し、それが現代的意義をもつことを示そうとします。この点で本書はきわめて独創的です。

本書が扱う重要問題のうち、第一に注目すべきは、上記(2)の「ロック自由論」の考察です。『人間知性論』2巻21章(Of Power)のテクストは改訂を重ね、難解なことで有名です。その解釈に関しては、近年、チャペル、ヤッフェ、マグリらが従来の研究水準を格段に向上させる業績を残しました。著者は本書の3章、4章、5章で彼らの解釈を批判的に検討し、ロックのテクストを丹念に吟味します。著者は、ロックが一方で自由意志を否定して、行為の自由と必然性を両立させる両立論をとり、他方で、意志の自由な行使を認める自由意志擁護論を展開していること、つまり、二つの互いに矛盾する見解を支持していることを認めます。しかし、著者は両者の矛盾を解消することを試み、ロックの自由意志擁護論を重視し、それが現代の責任論と倫理的実践にとって意義をもつと論じます。本書の三つの章での鋭い分析は、近年の高い研究水準をさらに向上させるものだと思われます。第二に、著者はロックが論証可能な道徳のテーゼをいかにして擁護したかに関して、本書2章で明快な説明を与えています。ロック研究においてこの問題は十分に扱われてこなかっただけに、この説明は貴重です。第三に、人格同一性の議論に関して、著者はロックへの通常の批判(推移性や連続性にもとづく批判や、一人称基準と三人称基準との対立にかかわる批判)にロックの観点から応答し、「意識」や「記憶」という人格同一性の基準が、人間の法廷においても、一定の条件のもとで蓋然的判断を重視した形で採用されうることを明らかにしています。

以上のように本書は、『人間知性論』の解釈の可能性を広げ、従来のロック研究の水準を凌駕したばかりでなく、自由と必然性に関する両立論と自由意志擁護論の調停、道徳の論証可能性、さらには、人格の同一性といった、現代においても論争が続いている難問に果敢に挑戦し、格闘し、独自の解答を与えています。このような理由により、選考委員は全員一致して、本書がイギリス哲学会賞にふさわしい著作であると判断いたしました。

選考委員(50音順)
小林麻衣子、下川潔、勢力尚雅、柘植尚則、成田和信(委員長)、矢嶋直規

第12回日本イギリス哲学会奨励賞選考結果

選考委員長 坂本達哉(早稲田大学)

2019年9月28日におこなわれた「日本イギリス哲学会奨励賞選考委員会」(メンバーは伊勢俊彦・下川潔・濱真一郎・山岡龍一の各会員と坂本)において、選考対象となった『イギリス哲学研究』第42号掲載の三論文のなかから、下記の二論文を「第12回日本イギリス哲学会奨励賞」の受賞作とすることに決定しましたので、ここに報告いたします。

上田 悠久「ホッブズの教会論と助言」
澤田 和範「ヒュームにおける「一般規則」の発生論的解釈」

委員会では、1.論述の説得力、2.論述方法の堅実さ、3.先行研究への目配り、4.議論の独創性、5.将来の研究への発展可能性等について慎重な検討を行い、上田、澤田両会員の上記論文が甲乙つけがたい内容と水準に達しており、本年度の受賞作にふさわしいとの結論に達しました。各論文の受賞理由の要点は以下の通りです。

上田悠久会員の論文は、ホッブズの教会統治論を、歴史的具体的状況の中で登場した特定の宗派や教義への対抗策と見るのではなく、主権者への「助言」と主権者の「命令」としての「法」を区別した上で、説得と強制力の区別の観点から、ホッブズの理論的一貫性を浮き彫りにしようとするものであり、先行研究と一次資料を手堅くまとめたその分析手法は、たかく評価されました。「助言」と「助言論」の区別の曖昧さ等も残るとはいえ、本論文の成果のうえに一層の検討が加えられることにより、『リヴァイアサン』の総合的な読み直しへのあらたな貢献となることが期待されます。

澤田和範会員の論文は、ヒュームの一般規則を、傾性的規則と規範的規則に分ける一般的な区別を認めながら、発生論的観点から両者を関係づけ、これらがともに一般規則と呼ばれ、規範的な規則をふくめて「非哲学的」と言われるのはなぜかという問題を検討しており、ヒューム哲学の理解にとって有益な論点を提供しています。規範性の生成の機構そのものについてはなお一層の掘り下げが望まれるとはいえ、とかく断片的あるいは個別論点に集中しがちなヒュームの一般規則論を、関連する研究文献からも手堅く学びながら、発生論的観点から総合的に分析していることがたかく評価されました。

受賞者の言葉

第2回日本イギリス哲学会賞受賞者 佐々木拓会員

この度は第二回イギリス哲学会賞という名誉ある賞をいただきまして光栄です。これも諸先生、先輩方からいただいたご指導と激励、そして優れた後輩の皆様の研究から受けた刺激のおかげです。ここでは本書の原型となった博士論文執筆期間にご指導いただいた加藤尚武先生、水谷雅彦先生、成田和信先生に代表としてお礼を申し上げます。

拙著は、「倫理学の観点からロックを読む」という挑戦的意識から、観念の認知的体系としての「道徳の体系」とされてきたロック道徳論のなかに、自由やサンクション、幸福といった情動や意志に関わるものを持ち込む努力をしたものだと言えます。これには数々の書評において、宗教論や政治哲学の扱いの軽さをはじめとする多くの不足を指摘されましたが、より発展的な研究への教示として受け取りました。書評の労をとっていただいた方々に感謝申し上げます。

受賞にあたり、一ノ瀬正樹前学会長よりありがたいお祝いのお言葉をいただきました。会長が私に送られた「賞の意義は、受賞者のその後の活躍によって遡及的に深められていくもの」という言葉を強い叱咤のメッセージと受け止め、現在進めている現代責任論研究のみならず、今後はイギリス哲学研究にも再注力していくことを誓います。

第12回日本イギリス哲学会奨励賞受賞者 上田悠久会員

この度は奨励賞を頂戴し誠にありがとうございます。選考委員会、編集委員会、事務局の皆様、匿名の査読者の方々などコメントを頂戴した皆様、そして私を叱咤激励して下さった全ての方々に御礼申し上げます。私がホッブズ研究を始めたとき、まさか彼の宗教論に取り組むことになるとは思ってもいませんでした。宗教史・宗教思想史分野に関して全くの素人の私に、ホッブズの教会論と17世紀イングランドの政教論争について懇切丁寧に教えてくださった、故ジャスティン・チャンピオン先生に今回の受賞を報告できなかったのが残念です。私は「助言」を切り口に、教会権力と聖職者の主権者への従属を説くホッブズの教会統治論、そして彼の思想全体の中に、既存の秩序を怜悧に観察し、理想と現実の狭間でもがく彼の知的奮闘を見て取ろうとしてきました。確かにホッブズは、人々の生命そして安全を実現するためには主権権力の絶対性が必要だと説いていますが、彼の国家や人間社会に対する眼差しをそれほど単純に言い表すことができるのでしょうか。国家が公衆衛生すなわち(個々ではなく全体としての)人々の生命と安全を最優先課題と据える「コロナ禍」の現在だからこそ、そうした考えに最も適合的に見えるホッブズの議論を再検討する意義があると信じています。今回の受賞を励みに、引き続きホッブズ研究に取り組んで参る所存です。今後ともご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。

第12回日本イギリス哲学会奨励賞受賞者 澤田和範会員

澤田和範です。このたびは、日本イギリス哲学会という大きな学会の奨励賞をいただきましたことを、大変有り難く思っております。普段からお世話になっている先生方、また、論文に大変行き届いたコメントをくださった査読者のお二人、それだけでなく、私が気づかないところで気にかけてくださっている先生方もいらっしゃるのだと思います。そうした方々すべてに、まず心から御礼を申し上げます。

奨励賞の受賞の連絡があった日は、ちょうどその前日に博士論文の試問が終わったところでした。ほっとしていたところに、思いがけず、もう一つ嬉しい驚きが飛び込んできました。博士課程のあいだはなかなか成果を出せずに苦しい思いもしておりましたので、ようやく自信が出てきて書きあげた論文を評価していただいたことには、ちょっと単純には言い表せない気持ちがあります。

いま32歳で、まだまだ駆け出しの研究者です。皆様の研究にしっかり学んで、さらにイギリス哲学研究を少しでも前進させることを目指すということを今後の抱負と致しまして、受賞のお礼に代えたいと思います。皆様、どうもありがとうございました。

第45回総会・研究大会について

第45回総会・研究大会は、2021年3月20日(土)・21日(日)の両日、Zoomを利用したWebinarの形で開催されることになりました。URL等は、総会・研究大会プログラム等をお送りする2021年2月にお伝え致します。

1日目には、総会、記念講演、公募セッション、シンポジウムⅠ「イギリスにおけるジェンダー論のルーツ」 (司会:犬塚元、報告者:小川公代・舩木惠子)、2日目には、個人研究報告(名)、シンポジウムⅡ「イギリス哲学・思想と市民教育」 (司会:木村俊道・岩井淳、報告者:平石耕・柘植尚則・奥田太郎が予定されています。

詳細については2021年2月のプログラム送付の際にご案内いたします。

事務局より

ご挨拶

『学会通信』第57号をお送り致します。柘植会長のもとで第23期事務局がスタートしてから、半年ほど経ちましたが、新型コロナウィルスの影響で、イギリス哲学会の現事務局も、想定外のスタートとなりました。従来とは異なった対応が求められる中、前事務局の先生方、理事の先生方、会員の皆様から温かいご協力をいただいており、大変感謝しております。
「新会長挨拶」にもありますように、第45回研究大会もオンラインで開催されることになりましたが、若手の方々の学会報告の機会をできるだけ提供すべきであるという理事の先生方のご意見も反映しております。前例のない厳しい状況ですが、会員の方々のご報告の機会、研究交流の機会などをできるだけ提供できるように、微力ながら尽力したいと考えております。会員の皆様からも、この状況の中でのご要望、アイデアなどをいただけますと大変ありがたく存じます。

第44回研究大会のイギリス哲学会HPの開催について

2020年3月に予定されていた第44回研究大会をイギリス哲学会のHP上で開催しております(11月中旬迄)。掲載を希望いただいた方々の、個人研究報告やセッションの報告原稿、スライド、コメントをご覧いただくためのパスワードは以下になります。ご報告者には、会員の皆様のコメントをご希望なさっている方もいらっしゃいます。コメントを希望なさるご報告者のメールアドレスについては、ご報告のファイルをご覧下さい。(本ウェブサイト上では、リンク、パスワードの記載を省略します)

総会・大会の延期に伴うキャンセル料の補填について

第44回総会・研究大会の参加のための宿泊費・交通費に関してキャンセル料が発生した方で、かつ研究費などでそれが補填されない方(個人負担が生じた方)に対して、大会延期を通知した2月28日(金)から5日以内にキャンセル手続きを行っている場合に、理事会での審査の上、学会が全額負担することが、第182回理事会で承認されました。キャンセル料の補填をご希望なさる方は、下記のイギリス哲学会事務局宛に、原本のコピーを郵送下さい(11月25日必着)

メールアドレスのご登録について

新型コロナウィルスの影響で、今後も、学会のイベントの開催や日時、開催方法などが変更になる場合もございます。最新情報は学会HPでお知らせしておりますが、学会にご登録いただいたメールアドレス、学会のメーリング・リストでも、適宜、お知らせしております。皆様に変更点が迅速に伝わりますよう、学会にメールアドレスのご登録をなさっていない会員の方々、学会のメーリング・リストに登録されていない方々におかれましては、ご登録をお願いしたく存じております。ご登録いただける際は、下記の事務局のメール・アドレスまでご連絡ください。

会費納入のお願い

会費未納の方は、本年12月末までに振込をお願いいたします。年会費は6,000円です。2年分(12,000 円)以上の未納の場合には、来年3月末の学会誌の送付が停止され、役員選挙の選挙権・被選挙権を失います。更に、5年分(30,000 円)以上の滞納の場合には、自然退会となります。くれぐれもご注意ください。

学会通信 第56号(2019年11月)

柏經学先生を偲んで

柏經学先生は、2017年9月に急逝されました。享年93歳。

J・S・ミル研究で広く知られる先生は、九州大学法学部政治学科をご卒業後、アメリカ・テキサス州のベイラー大学政治学部大学院で修士号を取得され、1971年から23年間にわたり福岡大学法学部で教鞭をとられました。1979年には、「J・S・ミルの政治思想研究─初期および中期におけるミルの基本思想形成過程を中心として─」により九州大学から法学博士の学位をえられました。先生は、ミルの思想を、同時代のフランス政治思想との影響関係や比較分析の観点から議論されると同時に、特にミルの宗教思想の分析を中心に、19世紀イギリスの政治思想を幅広く考究されてきました。

日本イギリス哲学会では、1982年から1994年の12年間にわたって理事、そして九州地区の代表として学会運営の重責を担われ、後進の育成に尽力されました。

また学会の記念行事である『J・S・ミル研究』(日本イギリス哲学会監修、杉原四郎ほか編、イギリス思想研究叢書第9巻、御茶の水書房、1992年)へも寄稿され、ミル研究の振興に傾注されました。

先生の多年のご活躍に感謝申し上げると同時に、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

(事務局)

第一回海外部会(”UK-Japan Special Conference: Aspects of Early Modern British Philosophy”)を開催して

日本イギリス哲学会では、2018年11月の理事会において、新たに「海外部会」という活動ジャンルを導入することが決まった。関東・関西部会と同様なジャンルであり、毎年の研究大会時のセッションと同じように、会員の自発的提案によって開催・運営される。この新システムにしたがって、第一回の海外部会を、2019年9月11日と12日の二日間、イギリスOxford大学のSt Peter’s Collegeにおいて開催した。「近代前期イギリス哲学の諸側面」と題して、日本側から5名、イギリス側から5名の、計10名の提題者によって構成される研究会議であった。オーガナイズは、Oxford大学のPeter Kail教授、St Andrews大学のJames Harris教授、そして私一ノ瀬が務めた。Locke、Shaftesbury、Berkeley、Humeらの哲学について、新しい見地から研究発表が行われた。少人数による濃密なディスカッションがなされた研究会議で、様々な意味において画期的かつ有意義なイベントとなった。内容に少し触れた報告は『イギリス哲学研究』において行う予定である。強調すべきは、日本イギリス哲学会が、まさしくイギリスの地において、彼の地の研究者と交差した海外部会を実際に開催した、という事実の重みである。当学会の活動履歴として、新しい色の頁が付け加えられたのである。次の海外部会の開催可能性もすでに示唆されており(計画が実現すれば、おそらく場所はSt Andrews大学となるであろう)、日本イギリス哲学会はいよいよ未来ゾーンに突入したのである。

第43回総会・研究大会報告

日本イギリス哲学会第43回総会・研究大会は、2019年3月29日(金)・30日(土)の両日、広島国際大学広島キャンパスにて開催された。開催校責任者の村上智章会員や学生スタッフの熱心なサポートもあり、充実した大会となった(参加者107名)。

1日目午前の総会では、会長挨拶、開催校挨拶に続き、議長に新茂之会員が選出され、各種議案の審議が滞りなく進められた。総会の後には、一ノ瀬正樹会長による講演 ‘Williamson on Thought Experiments’ が行われた。

1日目午後には、2つのセッションが並行して開催された。セッションⅠ「アイザイア・バーリン研究の現在」(司会:高田宏史、報告者:小田川大典・山岡龍一、討論者:濱真一郎・森達也)では、バーリンをめぐる最新の研究動向も踏まえつつ、規範的政治理論と政治思想史の関係、さらに現実の政治・社会問題への応答可能性を中心に活発な議論が行われた。セッションⅡ「18世紀イギリスの知覚論と常識の関係性」(司会:萬屋博喜、報告者:山川仁・豊川祥隆・中元洸太)では、「常識common sense」の概念をめぐるバークリ、ヒューム、リードの所論が検討され、フロアとの間でも緊張感あふれる議論が行われた。

これに続いて夕方には、シンポジウムⅠ「蘇るフィルマー──近代社会哲学の源流再考――」(司会:青木滋之・小林麻衣子、報告者:古田拓也・小城拓理)が開かれた。フィルマーとその批判者ロックの思想に関する報告に対し、両者の思想をどのように研究し、その意義をどう捉えるべきか、踏み込んだ質疑応答が行われた。

1日目終了後、広島キャンパス最上階の幟町カフェにて懇親会が行われた。広島の街の夕景を眺め、あるいはバラエティ豊かな地酒を楽しみつつ、初日の議論を振り返り、研究の動向を話し合う和やかな交流の場となった。

2日目午前の個人研究報告は、12名の会員による発表となり、例年にも増して充実したものとなった。2日目午後は、シンポジウムⅡ「ケインズ・ウィトゲンシュタイン・ハイエク――不確実性の時代の秘められた知的連関――」(司会:久米暁・佐藤方宣、報告者:小峯敦・大谷弘・太子堂正称)において、不確実性をめぐる3者の認識が報告され、その内容が多面的に議論された。

なお、大会終了後の31日(日)には、エクスカーション企画が行われた。当日の模様については、次の鎌田厚志会員による報告を参照されたい。

「エクスカーション企画―2019.3.31 被爆者による被爆体験講話―」記録

鎌田厚志

広島国際大学で3月29・30日に開催された日本イギリス哲学会第43回研究大会の翌日31日に、エクスカーション企画として被爆体験講話を聞く機会が持たれました。場所は広島平和記念公園の中の追悼平和祈念館の一室で、被爆者の語り部である朴南珠(パク・ナムジュ)さんの御話を聞きました。朴さんは在日韓国人二世で、生々しい被爆体験とともに、戦中・戦後を必死に生きた思い出話や、親族の方々が体験した「朝鮮動乱」(朝鮮戦争)についての貴重な御話を、長時間に渡りしてくださいました。このように直接の体験談を聞くことはこれから先、めったになくなっていくことを考えれば、本当に稀な機会だったと思います。私たちがこの21世紀の時代に“sense of reality”を持ち続け、人間としての正気を保つためには、どうすれば良いか。今回の研究大会およびエクスカーション企画では、そのことについて深く考えさせられると共に、その大きな手がかりを与えられたことを、主催者の村上智章先生に心より感謝いたします。

第11回日本イギリス哲学会奨励賞選考結果

坂本 達哉(選考委員長)

2018年9月22日、慶應義塾大学で開催された「日本イギリス哲学会奨励賞」選考委員会において、日本イギリス哲学会奨励賞の候補となった2論文につき、問題設定の独創性、論理展開の明確さ、結論の説得力等の観点から、厳正に審議しました。その結果、いずれも力作ではあるが、本奨励賞が求める水準から見た場合、いくつかの点で改善の余地があると認められたため、本年度は、残念ながら、「該当作なし」という結論に達しましたので、ここにご報告申し上げます。

第44回総会・研究大会について

第44回総会・研究大会は、2020年3月21日(土)・22日(日)の両日、日本大学商学部(東京都世田谷区)にて行われます。同大学には瀧田寧会員が所属され、大会開催校責任者としてご尽力いただいております。

1日目には、総会、記念講演、2つのセッション、シンポジウムⅠ「イギリスにおけるジェンダー論のルーツ」(司会:犬塚元、報告者:舩木惠子・小川公代)、2日目には、個人研究報告(10名)、シンポジウムⅡ「イギリス哲学・思想と市民教育」(司会:岩井淳・木村俊道、報告者:平石耕・柘植尚則・奥田太郎)が予定されています。また、1日目夕刻に懇親会が開催されます。

詳しくは、2020年2月のプログラム送付の際にご案内いたします。

事務局より

ご挨拶

現在の事務局体制は2年目の後半に入り、そろそろ次期事務局への引継ぎも視野に入れながら作業を進める時期になりました。ミスをしないように注意しながら、学会本来の学術活動に傾注できるような学会体制と、それを支える事務局体制を少しでも整備したいと思います。それには会員のみなさまのご理解とご協力が不可欠です。どうぞよろしくお願いいたします。

会費納入のお願い

会費未納の方は、本年12月末までに振込をお願いいたします。年会費は6,000円です。2年分(12,000 円)以上の未納の場合には、来年3月末の学会誌の送付が停止され、役員選挙の選挙権・被選挙権を失います。更に、5年分(30,000 円)以上の滞納の場合には、自然退会となります。くれぐれもご注意ください。


学会通信 第55号(2018年11月)

新会長挨拶

第22期の会長を務めることになった一ノ瀬です。1990年代前半から本学会理事を務め、20年以上が経ちました。そろそろフェードアウトをと思っておりましたが、最後の責務と捉え、2年間精一杯努めたいと思います。会員の皆様のご協力を、なにとぞどうかよろしくお願いいたします。

本学会は、「哲学会」と名乗っておりますが、ご承知のように、狭い意味での哲学・倫理だけでなく、イギリスと通称される地域の思想展開に即した、政治思想、経済思想、法思想、歴史、文学など、幅広いフィールドの研究を視野に収めた、ある種学際的な研究集団です。このことは、しかし、イギリスの思想展開を改めて眺め返すならば、事柄のおのずとなりゆく様態であると言えるでしょう。会員から多くの関心を寄せられる哲学者デイヴィッド・ヒュームを例に取るならば、彼が、哲学・倫理に一時代を画す仕事を成し遂げたことは言うまでもありませんが、同時に、政治・経済思想、そして歴史の分野にも太い稜線を刻み残したジャイアントであることもまた周知のごとくです。そして実は、そうした事情は、ヒュームに限らず、イギリス哲学史に名を残す多くの哲人に当てはまります。バートランド・ラッセルに至っては、数学原理から幸福論、そして平和運動まで、その活動舞台は大きく振幅しています。事ほどさように、もともと哲学そして哲学者たるもの、森羅万象に目を向け、ときには文筆を越えて実践にまで至る、躍動的な志向性をうちに秘めたるものなのです。私どもイギリス哲学会は、とりわけイギリスの思想動向に沿いながら、こうした広い意味での哲学・思想の躍動性を自身に照らし返し、その意義を、その深みを、明るみにもたらし、それを社会に発信することによって、思考することの大切さを啓発していくという使命を帯びている、それが私の基本理解であります。学術研究は、専門的研究者が切磋琢磨して遂行していく仕事ですが、研究者内部の解釈論争などだけに終始したのでは説明責任を果たせません。外部へと波及させ、応分の社会的責任を果たしていく必要があります。日本イギリス哲学会もまた、そうした責任を担い、そして、辞典編纂などを通じて一定の貢献を果たしてきました。

むろん、今後のさらなる展開が求められる点もあります。一つには、研究対象として論じられる哲学や思想が、どちらかというと17世紀から20世紀初頭までにほぼ集中していて、中世以前、そして20世紀後半から21世紀までの、彼の地の動態に対する関心がやや手薄である点、いささか気になります。この点は、今後徐々に埋められていく必要があるのではないでしょうか。第二に、「イギリス」を謳いながら、必ずしも英語を直接使用した活動への関わりが十分であったとは言いにくい、という点があります。この第二点については、私自身、日本イギリス哲学会が主催または共催する研究大会を、恒常化させるかどうかはさておき、イギリス本国において開催する、という可能性を模索しております。少なくとも、そうした活動への足がかりを付けたい、というのが私の希望でありヴィジョンです。もはや、日本語だけで学術研究を続けるということは、賛否はあれ、事実として正当化されにくい状況だからであります。

いずれにせよ、学会運営は、会員の皆様のご理解とご協力、そしてなにより事務局の先生方のご尽力あってのものです。事務局業務を担当されている竹澤祐丈理事、森直人幹事、武井敬亮幹事にお礼を申し上げつつ、以上、ご挨拶としたいと存じます。

杖下隆英先生を偲んで

一ノ瀬正樹(武蔵野大学)

本学会元会長で、東京大学名誉教授の杖下隆英先生が、2017年11月にご逝去遊ばされました。

私は、杖下先生とはとても長い交流をさせていただきました。記憶する限り、東京大学教養学部において、杖下先生が理科系学生のための「論理学」の講義をされていたときに、私は文科系でしたが、自発的に聴講させていただいたのが最初です。1970年代後半のことです。非常にクリアなご講義で、哲学者らしく、論理哲学の話題にもふんだんに触れておられたことが強く印象に残っています。私は、そのとき自分で書き留めたノートをいまも保管しています。ときどき眺め返して、基本中の基本の項目を改めて確認するのに使用させていただいています。

その後、私は大学院生になって本郷キャンパスの哲学研究室に所属しておりましたが、駒場キャンパスで開催された杖下先生の演習にもしばしば顔を出しておりました。とりわけ、バークリの『視覚新論』翻訳の話しが、杖下先生を中心に立ち上がろうとしていたとき、その企画と呼応的に杖下先生が『視覚新論』を読解する演習を開いていて、それに出席したことが強い印象として残っています。その演習の後、一度杖下先生に食事のお誘いを受けて、渋谷の居酒屋に行ったことがあります。そのとき、生まれて初めて黒ビールをいただきました。その美味しさ、そして、杖下先生と親しくお話しできたこと、忘れることができない思い出です。

そうした交流は、その後もたびたび続きました。いつでしたか、学会出席のため新幹線に乗り、たまたま杖下先生と遭遇したことがあります。杖下先生から、食堂車に行かないか、とお声がけいただき、食堂車でご一緒したこともあります。いまは新幹線の食堂車はありません。テーブルに置かれた飲み物がガタガタ揺れていた、あの光景。セピア色に染まる追憶の断片です。また、1997年の米国モントレーで開催された国際ヒューム学会にて、杖下先生のご講演を拝聴したときの、あの熱気、いまでもまざまざと蘇ります。そしてなにより、杖下先生との思い出の中で、最大の場面は、2002年の香川大学で開催された日本イギリス哲学会研究大会のときのことです。帰りの飛行機とモノレールをご一緒しました。そのとき、「あなたとは昵懇だから」と言われたのです。このような言葉は、私の人生の中でもそう与えられるものではありません。照れくさいような、体が熱くなるような、不思議な感覚を覚えたものです。

その杖下先生が、いまはおられません。近くにいた私は、思い出すことを躊躇してしまいます。あの笑顔を思い浮かべると、胸が苦しくなってしまうからです。時間というのは、本当に冷淡なものです。だれもが、時間によって老いさせられ、最後を迎えさせられます。ヒューム研究、論理哲学の研究、いまでも後進の研究者たちを熱く刺激するお仕事を果たされた杖下先生。いまは、彼岸にて再会することを念じ、深い哀悼の意を捧げるばかりです。

齋藤繁雄先生を偲んで

一ノ瀬正樹(武蔵野大学)

本学会名誉会員で、東洋大学名誉教授の齋藤繁雄先生が、2018年2月にご逝去遊ばされました。

齋藤先生は、東洋大学文学部哲学研究室における、私の前任の教授であられました。私が東洋大学哲学研究室に専任講師として着任したのが1991年4月、その直前の3月に齋藤先生は定年を迎えられたのであります。齋藤先生については、それ以前からよく存じ上げておりました。日本イギリス哲学会のいろいろな研究集会を通じて、そして、齋藤先生のお仕事の核心をなすヒューム宗教哲学のご研究を通じて、です。とりわけ、齋藤先生が、同じく東洋大学で、社会学部に所属されていた福鎌忠恕先生との共訳で刊行されたヒューム宗教論集三部作、『宗教の自然史』、『自然宗教に関する対話』、『奇跡論・迷信論・自殺論』は、齋藤先生が果たされたお仕事の核心だと思われます。ヒューム宗教論は、実は、『人間本性論』に劣らず、いやそれにも増すほどの比重でもって、ヒューム哲学の根幹を形作っていることは、ヒュームを勉強しはじめるとすぐに気づきます。その方面の重要性に早くから着目し、後続の研究者たちへの道標を残してくださったこと、後に続く一人として改めて感謝を表明したいと存じます。

その後、私は東洋大学を離れましたが、名誉教授となられていた齋藤先生から、途中になっていたヒューム『人間知性研究』の訳業について、手助けしてほしい、という光栄な依頼をお受けいたしました。私にとって訳業は苦しいことだらけで、どうしようか迷いましたが、中身の重要性と、他ならぬ齋藤先生からのご依頼ということで、勇躍お引き受けすることにいたしました。それからが大変です。合間を見て、翻訳をして、さらに推敲をして、ついに2002年に私がイギリス・オックスフォードでの在外研究の機会を得たときまで仕事が尾を引くことになりました。オックスフォードのクライストチャーチの見える部屋で、翻訳作業を続けていたことをまざまざと想起します。その甲斐あって、ようやく完成し、齋藤先生と私との共訳書として刊行に至りました。その後、ビーチャム版との対応付けなど、改訂をして今日に至っております。その過程で、齋藤先生と直接お目に掛かる機会はありませんでした。お手紙をいただいて、翻訳についての指示を受けるなどしただけでした。そうこうするうち、齋藤先生がお亡くなりになられたという知らせを受けたのです。

人と人との結びは、固有の色合いとともに表象されます。私にとって齋藤先生は、なにより東洋大学の、あの古い校舎の色彩とともにあります。大学紛争の時代の名残が感じられる、東京の私学の立て看。白山界隈の伝統的な商店街。いまや東洋大学は近代的な校舎に生まれ変わり、周囲にも新しい店が出来て、往時の面影を偲ぶことはなかなか難しくなりました。学会の折に、いつもは謹厳な面持ちの齋藤先生が笑顔で私に話しかけてくれた、在りし日のあの面影を偲びつつ、ここに心よりの追悼の意を捧げたいと存じます。

第42回総会・研究大会報告

日本イギリス哲学会第42回総会・研究大会は、2018年3月28日(水)・29日(木)の両日、武蔵野大学有明キャンパスにて開催された。開催校責任者の青木裕子会員および武蔵野大学のスタッフの皆様に支えられ盛況であった(約120名の参加者)。

1日目午前の総会では、会長挨拶、開催校挨拶に続いて、議長に中釜浩一会員が選出され、各種議案の審議が滞りなく進んだ。また第10回日本イギリス哲学会奨励賞の発表がおこなわれ、大谷弘会員に対して賞の授与がおこなわれた。併せて第1回日本イギリス哲学会賞の発表が行われ、壽里竜会員に賞が授与された。総会に続いて、西本照真武蔵野大学学長による記念講演「東洋思想における幸福観の諸相」がおこなわれた。

1日目午後には、まずセッション「コモン・センスとコンヴェンション――18世紀英米思想における人間生活の基盤――」(司会:大谷弘、報告者:相松慎也・青木裕子・石川敬史)が開催された。リード哲学のキーワードである「コモン・センス」が18世紀英語圏における幅広い思想の中で再検討され、活発な議論が交わされた。また今大会では本セッションと並行して4名の個人研究報告が行われた。

さらに1日目夕方には、シンポジウムⅠ「イギリス哲学研究とデジタル・ヒューマニティーズ―思想史の事例を手がかりに―」(司会:梅田百合香・犬塚元、報告者:福田名津子・壽里竜)が開催され、この主題をめぐる現在の動向や今後の可能性と問題点について討論された。

1日目終了後、武蔵野大学ロハス・カフェ有明において懇親会がおこなわれ、打ち解けた雰囲気の中、分野を越えて親睦を深める本学会ならではの風景が見られた。

2日目午前には、8名の会員による個人研究報告と充実した議論がおこなわれた。2日目午後は、シンポジウムⅡ「近代日本とイギリス思想―「明治150年」をきっかけに―」(司会:岩井淳・下川潔、報告者:平山洋・山田園子・深貝保則)がおこなわれ、近代日本とイギリス思想の関わりとその問題性が深く問われ、また議論された。

第1回日本イギリス哲学会賞選考結果

只腰親和(選考委員長)

2017年9月17日に行われました「日本イギリス哲学会賞」選考委員会において、下記の書物を第1回日本イギリス哲学会賞受賞作に決定しましたので、ここに報告いたします。

Ryu Susato, Hume’s Sceptical Enlightenment, Edinburgh University Press, 2015.

本書は18世紀イギリスを代表する思想家のひとりであるデイヴィド・ヒュームを対象にして、彼の思想を書名のタイトルにあるように「懐疑的啓蒙」と枠付けして、その諸著作を哲学、政治、経済、宗教等の諸側面から分析したものです。啓蒙思想家としてのヒュームが著者によって「懐疑的」と特徴づけられるのは、その懐疑主義が認識論にのみ限定されるのではなく、宗教論はもとより政治論や社会論にも及んでいること、古代ギリシャ、ローマの哲学者で懐疑的とみなされていたエピクロスやルクレティウスの伝統を引いていることによります。

こうした前提で、本書の2、3章ではヒュームの懐疑的啓蒙の理論的な基礎になる観念連合と意見について論じられています。4章から7章では各論として、奢侈(4章)、国家との関係を中心とする宗教論(5章)、政体論を中心とする政治論(6章)、歴史観としての循環史観(7章)がそれぞれ分析され、8章ではJ.S.ミルやバーク等の18世紀後期から19世紀初頭にかけてのヒューム評価が紹介されています。

ヒュームは著者も言うように、「多面的、多義的な思想家」でしたが、その思想家の哲学、宗教、政治、経済、歴史といった多方面に及ぶ著作、論文を巨細にわたって丹念に渉猟した上、全体を懐疑的啓蒙として総合した点で本書は評価できます。またヒュームに関する個別論点ごとに、ヒューム自身の諸著作だけではなく、同時代や過去の関連する思想家の一次文献が広範に参照され、さらに内外の二次文献にも過不足なく言及されている点もすぐれています。達意の英文で、世界への研究の発信という面でも貢献が大きいとみなされます。

これらの諸点から本書は、日本イギリス哲学会賞に値するものと考えます。

選考委員(50音順)

秋元ひろと、有江大介、犬塚元、久保田顕二、只腰親和(委員長)

第10回日本イギリス哲学会奨励賞選考結果

2017年9月23日、東洋大学にて開催されました「日本イギリス哲学会奨励賞」選考委員会において、下記の論文を第10回「日本イギリス哲学会奨励賞」の受賞作とすることに決定しましたので、ここに報告いたします。

大谷 弘(おおたに ひろし)

‘Wittgenstein on context and philosophical pictures’ (Synthese, Vol. 193(6))

本委員会では、『イギリス哲学研究』第40号掲載論文および一般応募論文の中から、奨励賞の資格要件を満たす3編に関して、(1)論述の説得力、(2)論述方法の堅実さ、(3)先行研究への目配り、(4)議論の独創性、(5)将来の研究への発展の可能性等について慎重な検討を行い、大谷会員の上記論文が本年度の受賞作にふさわしいとの結論に達しました。

大谷会員の論文は、ウィトゲンシュタインの哲学的方法論、とくに、哲学的議論が陥りがちな概念的混乱を解きほぐす手法の特徴を、言語の理解が文脈に影響を受けること(context-sensitivity)に注目して明らかにしようとするものです。そのさい強調されるのが、ウィトゲンシュタインの哲学批判の非独断的な性格であり、その観点から、ハッカーらの「標準的解釈」が厳しく批判されます。ウィトゲンシュタインの哲学批判の軸は哲学者が「哲学的な像」にとらわれる過程の解明であり、その過程の大本にあるのが、文脈を無視した「モデル」への固執であることが、論文の後半では述べられます。「標準的解釈」や、それに従う一般的な後期ウィトゲンシュタイン理解によれば、日常的な語用法を逸脱してなされる哲学的言語使用は、正しい語用法の観点から一方的に退けられるのですが、本論文は、ウィトゲンシュタインの議論は、問題の哲学的言語使用を一方的に退けるのではなく、あくまで会話的な性格のものであり、それへの疑問は、解明、すなわちそれを理解可能とする文脈の提示を求める呼びかけであることを指摘します。哲学的な言語が空転に陥るのは、語が用いられる典型的な文脈についての想定が、本来の文脈を離れたところで固定したモデルとされることであり、こうして生成するのが「哲学的な像」であることを本論文は明らかにしています。

選考では、言語の正しい使用についての固定した直観による独断的な議論という、通説的な理解に代わる、言語使用の具体的な状況に注目する会話的で開かれた探求という、斬新な後期ウィトゲンシュタイン解釈が、周到な議論を伴って示されていることを高く評価し、大谷会員の論文を受賞作とすることに決定しました。

若手会員支援策を設置するまで

とても残念なことに、我が国では哲学・思想系の学問の研究は、ますます厳しい状況に追い込まれつつあります。大学教員数や予算の削減、学部の統合など、さまざまな形での縮小をせまられ、その結果、大学院生はもとより、大学院を修了した多くの若手研究者が経済的に不安定な状態で研究を続けざるを得ない境遇にあります。そのために、学会に所属して自らの研究を発表したり、意見交換をしたりすることも、ままならぬことになっています。このことは、我が国の哲学・思想系の学問の発展にとって大きな障害になっています。

このような背景もあって、本学会においても数年前から、若手研究者を支援するために学会として何かする必要があるのではないか、という声が理事の間で高まってまいりました。そこで、私が会長になって1年ほどたった2017年の春から、若手会員支援策に関するワーキンググループを設置し、具体的な支援策を考案してもらうことにしました。そのワーキンググループで考え出された案は、何度も理事会で長時間にわたり検討を加えて、修正を重ねました。その結果、(1)若手会員の学会費減額、(2)個人研究発表のための旅費の補助、(3)公募セッションのための旅費の補助、という3つの支援策を実施することが理事会で決定され、2018年の3月の総会で承認されました。(2)と(3)は、本年度から開始され、すでに、2019年の3月に広島国際大学で開催される大会での個人研究発表について7名、公募セッションについては3名の若手会員への旅費の補助が9月の理事会で承認されております。(1)に関しては、2019年度から開始される予定です。

これらの支援策の詳細ならびに応募方法は、学会からの配布物や学会ホームページで会員の皆様にすでにお知らせしておりますので、本学会の活性化のためにも、また、ひいては我が国における哲学・思想系の学問の発展のためも、なるべく多くの方に活用いただきたく心よりお願い申し上げます。

第43回総会・研究大会について

第43回総会・研究大会は、2019年3月29日(金)・30日(土)の両日、広島国際大学広島キャンパスにて行われます。同大学には、村上智章会員が所属され、大会開催校責任者としてご尽力いただいております。

1日目には、総会、会長講演、2つの公募セッション、シンポジウムI「甦るフィルマー─近代社会哲学の源流再考―」(司会:青木滋之・小林麻衣子、報告者:古田拓也・小城拓理)、2日目には、個人研究報告(12名)、シンポジウムII「ケインズ・ウィトゲンシュタイン・ハイエク―不確実性の時代の秘められた知的連関─」(司会:久米暁・佐藤方宣、報告者:小峯敦・大谷弘・太子堂正称)が予定されています。また、1日目夕刻に懇親会が開催されるほか、31日(日)には大会校によるエクスカーションも企画されています。

詳細については2018年2月のプログラム送付の際にご案内いたします。

事務局より

ご挨拶

『学会通信』第55号をお届けいたします。事務局をお預かりしてはや半年あまり。ルーティンをこなしつつ、一ノ瀬会長や理事のみなさまのご理解に基づいて、賞味期限切れになりつつある慣行や手続きを見直しています。その一環として、週1勤務の非常勤職員を雇用し、事務局の仕事の一部を担当していただいています。ボランティア・ベースで学会を運営することが難しくなっている現在、事務局担当者に過重な負担をかけない事務局や学会の運営を模索したいと思っています。その効果につきましては、2年間の試行期間の最後に検証する予定です。

また成田前会長時代にワーキンググループを設置して長期間議論を行ってきた若手会員の支援策が本年度から開始されています(その前提としての学会誌の電子公開も遡及分を含めて完了しました)。該当する会員のみなさまには、この制度を利用して、ご自身の研究活動の深化をとげられますことを心より願っております。

今後は、学会のガバナンス改革(役員任期の検討を含む)や、その国際展開のための制度づくりに傾注し、より活発な学会となるような議論のお膳立てをしていきたいと思っております。

会員のみなさまからも忌憚のないご意見を頂ければ幸いです。(竹澤)

会費納入のお願い

会費未納の方は、本年12月末までに振込をお願いいたします。年会費は6,000円です。2年分(12,000 円)以上の未納の場合には、来年3月末の学会誌の送付が停止され、役員選挙の選挙権・被選挙権を失います。更に、5年分(30,000 円)以上の滞納の場合には、自然退会となります。くれぐれもご注意ください。


学会通信 第54号(2017年11月)

第41回総会・研究大会報告

日本イギリス哲学会第41回総会・研究大会は、2017年3月27日(月)・28日(火)の両日、南山大学名古屋キャンパスにて開催された。開催校責任者の奥田太郎理事および南山大学のスタッフの皆様に支えられ盛況であった(参加者115名)。

1日目午前の総会では、会長挨拶、開催校挨拶に続いて、議長に平山洋会員が選出され、各種議案の審議が滞りなく進んだ。また、第9回日本イギリス哲学会奨励賞の発表がおこなわれ、梅澤佑介会員、豊川祥隆会員に対して賞の授与がおこなわれた。総会に続いて、成田和信会長による会長講演「欲求充足と幸福」がおこなわれた。
1日目午後には、シンポジウムⅠ「近代寛容思想の射程とその意義」(司会:梅田百合香・関口正司、報告者:川添美央子・下川潔・山岡龍一)が開催された。近年の世界情勢のなかでますます重要性を増しつつある寛容思想について活発な議論がなされ、本学会ならではのシンポジウムとなった。

1日目の大会終了後、南山大学リアンカフェにおいて懇親会がおこなわれ、研究にとどまらない様々な話題に話の花が咲き、会員相互の親睦が深められた。2日目午前には、7名の会員による個人研究報告がおこなわれ、いずれの報告でも活発な議論がおこなわれた。2日目午後は、シンポジウムⅡ「功利主義と人間の尊厳」(司会:奥田太郎・児玉聡、報告者:小畑俊太郎・山本圭一郎・中井大介)がおこなわれた。近現代のイギリス思想における大きな潮流である功利主義思想と人間の尊厳の観念の関係をめぐる学際的な議論がなされ、質疑応答もふくめて熱のこもったシンポジウムとなった。

第9回日本イギリス哲学会奨励賞・選考結果

伊勢 俊彦(選考委員長)

2016年9月24日、東洋大学にて開催されました「日本イギリス哲学会奨励賞」選考委員会において、下記の二論文を第9回「日本イギリス哲学会奨励賞」の受賞作とすることに決定しましたので、ここに報告いたします。

・梅澤佑介(うめざわゆうすけ)
「市民の義務としての反乱――ハロルド・ラスキによるT・H・グリーンの批判的継承」
(『イギリス哲学研究』第39号掲載論文)

・豊川祥隆(とよかわよしたか)
「ヒュームの関係理論再考――関係の印象は可能か」
(『イギリス哲学研究』第39号掲載論文)

今年度は、奨励賞への一般応募論文はなく、『イギリス哲学研究』第39号掲載論文の中から、資格要件を満たす三編が候補作となりました。本委員会では、候補作のそれぞれについて、(1)論述の説得力、(2)論述方法の堅実さ、(3)先行研究への目配り、(4)議論の独創性、(5)将来の研究への発展の可能性等について慎重な検討を行い、梅澤氏と豊川氏の上記二論文が本年度の受賞作にふさわしいとの結論に達しました。

まず梅澤氏の論文は、ラスキが、イギリス観念論を徹底的に批判する反面で、イギリス観念論の提唱者であるグリーンから「抵抗の義務」の観念を受け継ぎ、「反乱の義務」として主張していることに着目します。そして、ラスキによる「一元的国家論」から「多元的国家論」への転回が、グリーンの主権論を批判しながら、主権と抵抗についての新たな考え方のなかに「抵抗の義務」を位置づけ再生する試みを軸とするものであると指摘します。グリーンとラスキは、ともに主権の基礎を強制力ではなく被治者の意志に見出します。グリーンは、国家と被治者が道徳的に一体であることを前提としながら、抵抗を、国家が本来の目的から逸脱した場合に、あるべき国家のあり方を取り戻す市民の義務として構想します。これに対し、ラスキは、政治の次元と倫理の次元を区別することによって、国家の強制力による同意なき支配の可能性に目を向ける一方、国家以外の諸団体も、被治者の意志にもとづく主権性を認める多元的国家論を提唱し、市民に、国家との道徳的一体性に回収されない批判(「反乱」)の役割を課します。本論文は、これまで注目されてこなかったグリーンとラスキの批判的継承関係が、ラスキの多元的国家論の形成において果たした役割を明らかにした、思想史研究に対する重要な貢献と言えます。他方、委員会では、タイトルに掲げられた「反乱」が論文のまとめの部分で後景に退き、やや不明確な締め括り方になっているという、叙述方法の欠点も指摘されました。

次に豊川氏の論文は、観念の十全さの基準を、そのもとになる印象への遡上によって求めようとするヒュームの特徴的論法を複合観念の一種とされる関係の観念に当てはめるとき、いかなる解決が可能かを検討します。まず、関係の観念を構成するものとして、関係づけられる対象に加えて、関係を成立させる事情が必要であるとされ、ヒューム自身は明示的に論じていないとしても、そのもとになる印象についての問いが不可避であると述べられます。ヒューム自身の議論の中で、関係の印象への問いに最も近づいていると思われるのが、必然的結合の観念が、心の被決定の印象に由来するとする議論ですが、この議論の検討は、逆に、関係の把握が多くの場合にはっきりした感じを伴わないこと、また、心の被決定の印象に由来する観念が、いかにして必然的結合を表象するような内容を持ちうるのかという問いを提起します。これらの問いに対しては、関係の観念の場合には、印象を直接提示することによって観念を明晰化するというより、観念が見出される経験の提示によって観念の表象内容の確認を可能とするという方略をとるべきであり、そのさい、心の被決定のようなある感じがあれば、その経験を指示するための印として機能するであろうし、そのような感じがない場合も、穏やかな情念に類する印象を想定することができるという解決が提案されます。委員会では、例えば存在の観念や信念については、存在する対象や信じられる対象の観念と別個の知覚はないとされており、関係の観念についても同様の議論が可能ではないかという、本論文の問題設定に対する疑問も出されましたが、主張の鮮明さと議論の明解さを評価する意見が多数を占めました。

このように両論文については欠点の指摘や内容についての疑問もありましたが、いずれも斬新な問題設定で独自の論点を打ち出しており、さらなる研究についてその発展を奨励するに値するという結論に委員会として達し、二論文をともに受賞作にすることといたしました。

第42回総会・研究大会について

第42回総会・研究大会は、2018年3月28日(水)・29日(木)の両日、武蔵野大学有明キャンパスにて行われます。同大学には、青木裕子会員が所属され、大会開催校責任者としてご尽力いただいております。

1日目には、総会、記念講演、公募セッション、シンポジウムⅠ「イギリス哲学研究とデジタルヒューマニティーズ――思想史の事例を手がかりに」(司会:犬塚元・梅田百合香、報告者:福田名津子・壽里竜)、2日目には、個人研究報告(13名)、シンポジウムⅡ「近代日本とイギリス思想――「明治150年」をめぐって」(司会:岩井淳・下川潔、報告者:平山洋・山田園子・深貝保則が予定されています。また、1日目夕刻に懇親会が開催されます。

詳細については2018年2月のプログラム送付の際にご案内いたします。

個人研究報告と論文の公募のお知らせ

各種の公募は、例年、以下のようにおこなわれます。希望者は下記の要領で期日までに申し込んでください。

(A)各部会研究例会報告
申込締切 各部会研究例会の3ヶ月前
報告時間 60分
申込先  各部会担当理事または事務局
*2016-2017年度部会担当理事
関東:伊藤誠一郎、矢嶋直規
関西:久米 暁、竹澤 祐丈

(B)研究大会個人研究報告
申込締切 9月15日(消印有効)
報告時間 35分、質疑応答15分
申込先  事務局
申込方法 報告要旨(報告要旨(題目・氏名・所属を除いて1600字以内、英語の場合は 390 words以内)を添えて、メール(添付ファイル)または郵送)

(C)『イギリス哲学研究』掲載論文
申込締切 6月30日(消印有効)
申込先  事務局
申込方法 オンライン(2018年度の公募論文のオンライン申し込み方法については現在検討中ですので、決定次第HPに掲載します)

公募要領・執筆要領については、『イギリス哲学研究』最新号の「『イギリス哲学研究』執筆に関する諸規定」に従ってください。
公募論文は、匿名の査読者2名により審査されます。査読者は、編集委員会が編集委員を除く会員のなかから選出し、応募者名を伏せて秘密厳守のうえ審査を依頼しています。よって、応募者名、 論文名、査読者名は、編集委員会と事務局以外には非公開となっています。編集委員は、応募者にも査読者にもなれません。査読者の審査結果に基づいた編集委員会の判断により、理事会において掲載論文を決定後、投稿者に審査結果を通知いたします。

事務局より

会費納入のお願い

会費未納の方は、本年12月末までに振込をお願いいたします。年会費は6,000円です。2年分(12,000 円)以上の未納の場合には、来年3月末の学会誌の送付が停止され、役員選挙の選挙権・被選挙権を失います。更に、5年分(30,000 円)以上の滞納の場合には、自然退会となります。くれぐれもご注意ください。

役員(理事・会計監査)選挙結果について

選挙管理委員会のご尽力により、滞りなく開票が行われ、当選理事15名と会計監査2名、さらに当選理事の推薦による10名の理事も決定されました。前回よりも有効投票総数が27%程度増加しました。次回も皆様の積極的なご投票をお願いいたします。

今後の学会運営について

試験的に運用しております学会メーリング・リストの本格的な稼働に向け、準備が進んでおります。電子化委員会のご尽力により、バックナンバーを含む学会誌の電子化の作業も進んでおりますので、遠くない時期に皆様にもご利用いただけるかと思います。(太子堂)


学会通信第53号(2016年11月)

新会長挨拶

第21期の会長を務めることになりました。どうぞ宜しくお願い申し上げます。

本学会が創設されてから今年で 40年になります。それを記念して、坂本達哉前会長を中心にした前期理事会の議論をへて、新たに「日本イギリス哲学会賞」が設立されました。その目的は、本学会員のイギリス哲学に関する優れた研究業績を顕彰するとともに、本学会に対する社会的認知度の向上をめざすことにあります。この賞の第1回目の審査のために、この夏に会員の皆さまから推薦を募りました結果、四つの著作が推薦されました。いずれも、本学会員の研究の水準の高さを示す優れた著作です。すでに、選考委員会を組織し、再来年3月の会員総会での選考結果の発表をめざして、選考が開始されております。また、創立40周年事業としては、この他に、本年3月の学習院大学での研究大会において、「イギリス哲学研究の21 世紀」というシンポジウムと、会員の皆様からの公募による四つのシンポジウムが実施され、いずれも成功裏に終わりました。

ご承知のように我が国では、人文社会系の学問の研究ならびに教育は、ますます厳しい状況に追い込まれつつあります。とくに、哲学、思想、歴史、文学、芸術などの分野は、大学教員数や予算の削減、学部の統合など、さまざまな形での縮小をせまられ、これまでの研究の成果を維持発展させ、そ れを多くの学生に教育を通じて伝えていくことが難しくなってきております。このようなことは、ものごとをその根本的な原理まで遡って深く考察する態度や、既存の見方や「常識」をさまざまな視点から検討しなおすという姿勢を、人々から奪ってしまい、その結果、社会がより良い方向に進むことを阻むことに
なるのではないかと危惧しております。このような状況を鑑みますと、本学会の活動を通して、思想、歴史、文学、芸術など含めた大きな意味でのイギリス哲学に関する我が国における研究を少しでも活性化し、その成果をさまざまな仕方で発信していくことは、その重要性を増していると思われます。その意味でも、まずは、新設された「日本イギリス哲学会賞」を軌道にのせ、会員の皆さまがなるべく多く参加してくださるような研究大会の在り方を模索することに努めてまいりたいと思っております。

ただ、現在の学会事務の業務方法を変えないかぎり、学会の活動を活性化するための事業が増えれば、事務局の負担が増えることにもなります。今期は、太子堂正称事務局長、板井広明幹事、川名雄一郎幹事の献身的な努力によって、事務局が運営されていますが、学会事務業務を遂行するために事務局担当会員の貴重な研究時間が大幅に削られていることもたしかです。したがって、学会の活動の活性化を図りながら、同時に事務局の事務量を少しでも軽減することが重要であると考えております。

以上のことを心にとどめながら、会長として微力ながら力を尽くしてまいりたいと思っておりますので、会員の皆さまには、ご協力とご支援のほど宜しくお願い申し上げます。

第39回総会・研究大会報告

日本イギリス哲学会第40回総会•研究大会は、2016 年3月28日(月)•29日(火)の両日、学習院大学目白キャンパスにて開催された。開催校責任者の下川潔理事および学習院大学のスタッフの皆様に支えられ盛況であった(参加者86名)。

1日目午前の総会では、会長挨拶、開催校挨拶に続いて、議長に星野勉会員が選出され、各種議案の審議が滞りなく進んだ。 総会に続いて、酒井潔学習院大学教授による記念講演「ライプニッツにおける『正義』の概念」がおこなわれた。

1 日目午後には、シンポジウムI「イギリス哲学研究の21世紀」(司会:只腰親和、柘植尚則、岩井淳、報告者:神野慧一郎、泉谷周三郎、田中秀夫、坂本達哉)が開催された。学会創立40周年を記念したこのシンポジウムでは、世代をこえて活発な意見交換がおこなわれ、イギリス哲学研究や学会のあり方について考える貴重な機会となった。

1日目の大会終了後、学習院大学創立百周年記念会館内で懇親会がおこなわれ、 研究にとどまらない様々な話題に話の花が咲き、会員相互の親睦が深められた。

2日目午前には、5名の会員による個人研究報告がおこなわれ、いずれの報告でも活発な議論がおこなわれた。2日目午後には、まず臨時総会が開催され、10名の指名理事、および新理事によって互選された新会長がそれぞれ承認された。

その後、シンポジウムIIとして、学会創立40周年を記念し公募によって選ばれた以下の 4 つのシンポジウムが並行しておこなわれた。(i)「イギリス経験論とは何なのか 『ロック、バークリ、ヒューム』の系譜」(司会:伊勢俊彦、一ノ瀬正樹、報告者:青木滋之、中野安章、田村均)、(ii) ‘Hume on the Ethics of Belief ‘ (司会:渡辺一弘、報告者:Hsueh Ou、萬屋博喜、Axel Gelfert)、 (iii)「イギリス思想における常識と啓蒙の系譜 18 世紀スコットランドから 20 世紀ケンブリッジヘ」(司会:青木裕子、報告者:片山文雄、大谷弘、野村智清)、(iv)「イギリスの複  合国家性と近代社会認識ー 歴史叙述を中心に」(司会:竹澤祐丈、報告者:竹澤祐丈、森直人、木村俊道、佐藤一進)。会員の多様な研究テーマ•関心を反映したさまざまなトピックに ついて密度の濃い報告•質疑応答がおこなわれ、学会創立40周年にふさわしい企画となった。

第41回総会・研究大会について

第41 回総会•研究大会は、2017年3月27日(月)•28日(火)の両日、南山大学名古屋キャンパスにて行われます。同大学には、奥田太郎理事が所属され、大会開催校責任者としてご尽力いただいております。

1  日目には、総会、会長講演、シンポジウムI「近代寛容思想の射程とその意義」(司会:関口正司、梅田百合香、報告者:川添美央子、下川潔、山岡龍一)、2日目には、個人研究報告(3会場、7名)、シンポジウムII「功利主義と人間の尊厳」(司会:児玉聡、奥田太郎、報告者:小畑俊太郎、山本圭一郎、中井大介)が予定されています。また、1日目夕刻に懇親会が開催されます。

会場、参加申込等の詳しい内容については、2017年 2月のプログラム送付の際にご案内いたします。

第8回日本イギリス哲学会奨励賞・選考結果

一ノ瀬 正樹(選考委員長)

2015年9月19日、慶應義塾大学で開催されました日本イギリス哲学会奨励賞選考委員会におきまして、2015年度の日本イギリス哲学会奨励賞の候補作の論文2点につき、論文の独創性、論旨の明快さや説得性等の観点から慎重かつ厳正に審議いたしましたが、該当作なしという結論に達しましたので、ここにご報告申し上げます。

個人研究報告と論文の公募のお知らせ

各種の公募は、毎年、以下のように行われます。希望者は下記の要領で期日までに申し込んでください。

(A)各部会研究例会報告
申込締切各部会研究例会の3ヶ月前
報告時間60分
申込先各部会担当理事または事務局
(*2016-2017年度部会担当理事
関東:伊藤誠一郎、矢嶋直規
関西:久米 暁、竹澤 祐丈)

(B)研究大会個人研究報告
申込締切9月15日(消印有効)
報告時間35分、質疑応答15分
レジュメ1600字以内(題目・氏名・所属を除く)、英語の場合は390ワード以内
関東:伊藤誠一郎、矢嶋直規
関西:久米 暁、竹澤 祐丈)
申込先事務局
申込方法メール(添付ファイル)または郵送

(C)『イギリス哲学研究』掲載論文
申込締切6月30日(消印有効)
申込先事務局
申込方法郵送

公募要領•執筆要領については、『イギリス哲学研究』最新号の「『イギリス哲学研究』執筆に関する諸規定」に従ってください。

応募論文の審査は以下のようにおこなわれています。応募論文は、匿名の査読者2名により審査されます。査読者は、編集委員会が編集委員を除く 会員のなかから選出し、応募者名を伏せて秘密厳守のうえ審査を依頼しています。よって、応募者名、 論文名、査読者名は、編集委員会と事務局以外には非公開となっています。また、編集委員は、応募者にも査読者にもなれません。採否は査読者の審査結果に基づいた編集委員会の判断により、理事会において掲載論文を決定後、投稿者に結果を連絡いたします。

井上公正会員の死を悼む

神野  慧一郎(大阪市立大学名誉教授)

本学会名誉会員井上公正会員は、昨年2015年8月1日逝去された。最近の若い会員の方々は、井上会員をよく御存じでないかもしれないが、かれこれ30年ほどお付き合いをしてきた私のようなものにとっては、井上会員がこの世を去られたことは一つの衝撃である。というのも、故人がつい最近まで御老齢にも拘わらず(御生誕は1921年)、本学会の大会のみならず地方部会(関西部会)にも、少し体調の良くないときでも愚痴を言うでもなく、静かに出席しておられたことは、敬愛すべき故人のお人柄、すなわち自らの志すところへむかってたゆまず努力する誠実なお人柄を如実に示すものであり、まさに以て範とすべきであると常々思っていたからである。

井上会員は本学会創設時以来の会員であり、1984年から1992年まで本学会の理事を務めて頂き、2003年には名誉会員に推挙されておられる。

職歴は、東北大学卒業の1949年7月の名古屋大学文学部助手に始まり、1953年に奈良女子大学文学部講師として関西に移られ、以後は同大学で、助教授ついで教授として勤務され、1984年3月定年退官された。その後も奈良大学で教鞭をとられ、また皇学館大学にも参与としてお勤めになられた。

井上会員はほぼ一貫してジョン•ロックの寛容論の研究に一生を捧げられたが、名古屋大学時代には、ルネサンス•ヒューマニズムやプラトンの国家論の研究も行っておられる。これらの研究は、しかし、ある一貫性に基づいており、主著である『ジョン•ロックとその先駆者たちイギリス寛容論研究序説 』(1978)に反映されている。すなわち、この著書の第一章は、「トマス•モアの寛容論」であり、ヒューマニストの寛容論を取り上げたものである。そして議論はイギリスにおける宗教改革と寛容の問題、ついで17世紀前半の寛容思想、そしてロックの寛容論へと展開されている。

イギリスにおける寛容論はもちろん宗教上の寛容論がその源流であろうが、しかし寛容論は、人間の自由の問題と無関係ではない。この点についての故人の見解は、おそらく退官時の最終講義の草稿と思われる論考、「ロックの「自由」論に関する一考察」(『研究年報』28、奈良女子大学、1984)に述べられている。故人は、ロックの自由論の要とも言うべき、」七つの概念を取り出している。「力能」、作用力能がindifferency(志向可能的中立)の状態にあること、欲望がある意味で意思の決定に関わるということ、理知、理知に基づく意志の自由、天賦の権利(一切の国家権力に先立って存在する権利)、国家  権力の恣意的干渉の抑止などの概念分析がそれである。そして、この分析の最後の点は、主著「はしがき」冒頭に述べられているご自身の経験(社会主義者ではないかという不当な嫌疑により自由の国、米   国へのヴィザが得られなかった)に関係がある。

温厚にして篤実、しかも一貫した思索を貫徹された誠実な井上名誉会員の死去は、私の人生をまた更に寂しいものとした。

山下重ー先生の死を悼む

泉谷  周三郎(横浜国立大学名誉教授)

山下重一先生は、2016年4月1日に胃ガンで亡くなられた。享年90歳。先生は、2014年4月に脳梗塞で倒れ、左半身に麻痺が残ったが、奇跡的に自宅で読書と執筆ができるまでに回復された。昨年暮、「脳梗塞で倒れたが、執筆活動ができるようになったのでお会いしたい」との御手紙をいただき、2016年1月4日の午後、三鷹の先生宅で2時間半ほど話し合うことができた。そのとき、先生の研究意欲はきわめて旺盛であっただけに、その死が惜しまれる。

山下先生は、1944年に東京大学経済学部に入学し、卒業後、法学部の政治学科に学士入学し、1951年法学部を卒業し、都立石神井高校の教諭となった。1965年4月、國学院大学の法学部の助教授となり、政治思想史や西洋政治史などを担当した。清廉で温厚な人柄で、院生や学生を指導しながら、イギリス近代の政治思想と日本におけるそれらの受容を可能な限り深く理解しようと努めてこられた。山下先生は、政治思想研究を深める継起となったものとして、1973年5月にトロント大学で開催された「ミル父子記念学会」に甲南大学の杉原四郎先生と一緒に参加し、ロブスン教授、ハンバーガー教授らと知り合ったこと、わが国においてもミル研究者の交流のために定期的な研究会を開催することの必要性を痛感したことなどをあげている。杉原先生と山下先生により1975年に「ミルの会」が生まれた。また両先生は、編者として『J.S.ミル初期著作集』全4巻を計画し、刊行された。山下先生は、1980年から日本哲学会の常任理事となり、研究大会の企画や学会誌の編集などを担当しながら、学会では司会や報告者として活躍された。

山下重一先生の主要な研究業績としては、『J.S.ミルの政治思想』(木鐸社)、『ジェイムズ•ミル』(研究社出版)、『J.S.ミルとジャマイカ事件』(御茶の水書房)、訳書『評註  ミル自伝』(御茶の水書房)、論文「J.S.ミルの1830年代における思想形成と政治的ジャーナリズム(1)(2)(3)」(『國学院法学』)、「中村敬宇訳『自由之理』(1)(2)(3)」(『國学院法学』))などがあげられる。山下重一先生は、学会員がこれらの研究業績を生かして、それぞれの研究を深めることを切に望んでいたように思われる。

事務局より

ご挨拶

本年4月より、本学会の事務局が大月短期大学より東洋大学に移りました。約10年ぶりの事務局担当で不慣れな点も多数ございますが、少しでも会員の皆様 の便宜となり、円滑な学会運営ができますよう引き続き努力してまいります。皆様方のご協力を賜りますようお願いいたします。

会費納入のお願い

会費未納の方は、本年12月末までに振込をお願いいたします。年会費は6,000円です。なお、2年分(12,000円)以上の未納の場合には、来年3月末の学会誌の送付が停止され、役員選挙の選挙権•被選挙権を失います。さらに、5年分(30,000 円)以上の滞納の場合には、自然退会となります。くれぐれもご注意ください。

理事および会計監査選挙について

役員選挙の日程変更が第167回理事会で承認されました。次回(2018-2019年度役員選出)より、投票締切が改選年度前年の7月下旬に早まります。選挙関連書類は6月上旬に発送予定です。なお、会計監査について、監査や監事の名称も使われておりましたが、今後は会計監査で統一することになりました。

今後の学会運営について

学会誌につきましては、バックナンバーの電子化、学会 HP での閲覧のための作業が進んでおります。また、将来的には「学会通信」「総会•研究大会プログラム」、「部会研究例会案内」などの資料も電子ファイルで提供させていただき、紙媒体での送付を原則として廃止するといった案も検討されておりますこと、お知らせ申し上げます。