学会通信(最新号 第59号(2022年11月))

新会長挨拶

山岡 龍一(放送大学教養学部)

2022年度から第24期の会長を務めさせていただくことになりました、山岡です。よろしくお願いいたします。

ここ数年、新型コロナウィルス感染症の影響で、我々の生活が多大なる変容を強いられました。日本イギリス哲学会も、第44回から第46回にかけての研究大会がオンライン開催になるなど、厳しい対応を迫られました。前会長の柘植会員と前事務局長の戒能会員をはじめとする前執行部のご尽力により、本学会はこの危機を無事乗り切ることができました。まだ軽々な判断はできませんが、世間的にはコロナ禍への社会的対応は次のフェーズに移りつつあるように思えます。次回の研究大会がどのような開催形態となるかはまだ断言できませんが、このことを含めて学会活動の全体を通常運転に向けて調整していくことが、今期の理事会の課題の一つであると理解しています。

コロナ禍は、Web会議システムを使った研究会や会議の利用を、この禍がなければありえなかった速度で促進しました。こうした意図せざる利点が明らかになりましたので、通常に戻るとはかつてと同じになることを意味しません。しかしながら、リモート作業によって失われたものも慎重に考慮して、今後の在り方を探っていくつもりです。

2026年に本学会は設立50周年を迎えます。厳密にいえば、次期の理事会のイベントになりますが、今期の理事会では、その準備を進めていくことも重要な課題だと認識しています。すでに会員の皆様にはこの件に関するアンケートへのご協力をお願いしましたが、こうして広く意見を募りながら、できる限り有意義な事業を責任ある仕方で構想し、それを実行に向けて具体的な準備をすることを目指して今後とも努力していきたいと思います。皆様にはさらなるご協力をお願いいたします。

コロナ禍による停滞は、学会の現状を把握する上での困難を生んでいるかもしれません。これは日本社会全般の問題ともいえますが、学会としての活力が必ずしもみなぎるものとなっていないように見受けられます。公募論文への投稿数等が、その目に見える指標ですが、それが芳しくない傾向にあるように見えます。会長や理事会の仕事は、組織としての学会の維持と発展という、外在的な善と、学問(我々の場合、イギリスを対象とする学際的で専門的な研究)の探究の促進という内在的な善の、両方を追求することだと考えます。たしかに後者こそ、学会の活力の中核ですが、それを支えるのが前者です。わたしの仕事は、この二つの善を適切に均衡させながら追求することだと考えています。

理事の任期に制限を加えた会則の第7条の施行の影響が、理事の選出に初めて大きな影響を与えたのが、今期の理事選でした。結果として、新しい人材が生かされることになりましたが、これまでと比べて、ベテランの理事が少ない状況を生んでいます。したがって、学会運営において今まで以上に、会員の皆様のご理解とご協力が必要であり、理事の皆様の知力を結集し、それを事務局のご尽力によって生かしていかねばなりません。すでに事務局をはじめとする皆様には大変お世話になっていますが、さらなるご協力を引き続きよろしくお願いするとともに、この挨拶の場をかりて、お礼を申し上げたいと思います。

第46回総会・研究大会報告

2022年3月19日、20日に開催された第46回総会・研究大会は第45回に引き続き、コロナのためにオンライン開催となりました。開催拠点校は瀧田寧会員が所属しておられる日本大学商学部でした。瀧田会員、および第23期事務局の柘植尚則前会長、戒能通弘前事務局長はじめ事務局の皆さんのご尽力によってスムーズに行われました。出席人数は実数で初日が109名、2日目が105名とほぼ昨年と同程度の参加者がありました。

19日午前のプログラムの最初に総会が開催され、議長に選出されました広島国際大学の村上智章会員の司会により行われました。続いての特別講演は名著『自由と陶冶』で名高く、近年岩波文庫からJ・S・ミルの『自由論』と『功利主義』の翻訳を出版された九州大学名誉教授関口正司先生に頂くことができました。セッションは青木滋之会員の司会による「17世紀イングランドでの新旧哲学の融和と変容:信仰・理性・経験」というテーマで竹中真也会員、内坂翼会員、中野安章会員がイギリス哲学の中心にある課題について大変力のこもった発表をされました。シンポジウム1「S・T・コウリリッジのロマン主義:近代社会の限界と可能性」では小田川大典会員、大石和欣会員による発題に、議論は大変盛り上がりました。

2日目の午前のプログラムの個人研究報告では、鵜殿憩会員、春日潤一会員、櫻井新会員が大変レベルの高い発表をされました。個人報告はプログラム上パラレルセッションの形式をとり、すべての報告に参加できないことが多いのですが今回は重複なくすべての研究発表に参加することができたことは大変幸いなことでした。午後はシンポジウム2で「雑談・孤独・崇高:コロナ禍以後に向けたイギリス哲学・思想の射程」と題する現代的な主題で、林誓雄会員、望月由紀会員、桑島秀樹会員の学問的刺激に富んだ発題がありました。

2日間を通して、論じられた時代と分野のバランスが見事にはかられていて、本学会の特徴が発揮される研究大会になったと思われます。奥田太郎委員長はじめ企画委員の先生方のご尽力に感謝いたします。しかしコロナでやむを得ないことであったとはいえ、3年間オンライン開催が続いてしまいました。やはり膝を突き合わせ、口角泡を飛ばしての議論が行われる研究大会となることが切に望まれ、第47回の愛知教育大学での研究大会がそのような機会となることを願わずにはいられません。(矢嶋直規)

第3回日本イギリス哲学会賞選考結果

選考委員長 坂本達哉(早稲田大学)

新型コロナ感染症の中、推薦された三作品について、メールでの意見交換を重ね、厳正な審査をおこなった結果、9月5日のメール審議において、以下の候補作を第3回日本イギリス哲学会賞の受賞作とすることに全員一致で決しましたので、ここに報告いたします。

森達也『思想の政治学──アイザィア・バーリン研究』(早稲田大学出版部、2018 年)

本書は、難解な文体によって知られるバーリン思想の全体像を、日本で初めて、1.哲学・政治理論(第1章〜第4章)、2,思想史(第5章)、3.ナショナリズム/シオニズム論(第6章〜第7章)という3つの視点から総合し、国際的にもまれな重厚な成果をあげています。序論と結論に充実した文献目録と事項・人名索引を加え、内容・形式ともに、学術書としての完成度はたかく、バーリン以外の主要な思想家や研究者を網羅した研究対象の広さも特筆されます。バーリン自身の公刊著作と刊行中の書簡集、公刊・未公刊の草稿資料を駆使した研究手法は、若い研究者の模範となるような水準に達しています。

バーリンの政治理論については、ひろく知られる「二つの自由」論における消極的自由の擁護と積極的自由の批判を、冷戦構造下の西側自由主義の擁護と結びつける伝統的解釈と、現代的な価値多元論の一典型とするポスト・モダン的解釈とが共存してきました。本書はこれに対し、バーリン思想の根底に、1930 年代のオックスフォードの哲学者たちとの知的交流があった事実に着目し、とりわけ、エイヤー等の論理実証主義に対する批判と、新カント派経由の解釈学的伝統の影響による「歴史主義的転回」の意義を指摘します。結果として、バーリンの「価値多元論」が、単なる価値相対主義やイデオロギー的な自由主義擁護論ではなく、強固な哲学的基礎をもつ一個の政治哲学であることを、大きな説得力をもって論証しています。

著者はさらに、バーリンの思想史研究の諸成果をも上の歴史主義的転回の成果として位置づけます。現代の高度化した思想史研究の水準から見れば問題が多いとされる、「対抗的啓蒙」をはじめとするバーリンの思想史研究ですが、著者はとりわけ、戦後ポスト・モダンの言語論的転回と軌を一にする、「プロイセンのヒューム」と言われたハーマンの言語論研究と、バーリン自身のリベラル・ナショナリズムの原点となったヘルダー論に着目します。バーリンの啓蒙思想研究を、バーリン政治哲学の思想史への応用、あるいは、価値多元論の学問的実践として位置づける著者の分析は手堅く、説得力に富んでいます。

著者が最後に提示するバーリンの(ヘルダー、ヘス由来の)シオニズム擁護論の独自な解釈は、政治的にデリケートな要素を含みますが、著者の特別の熱意を感じさせます。18世紀啓蒙の精神を継承するバーリン自由主義の核心にある文明の「品位」の擁護を、著者もまた共有することを明示し、政治哲学研究が著者自身の思想の学問的表現でもあり得ることを、本書の著者は身をもって示しています。

以上、哲学・倫理学、政治哲学・思想(史)というイギリス哲学会の主要な研究領域を網羅し、堅実な文献実証と広範な研究文献の渉猟によって、国際的にもまれな総合的バーリン研究をまとめ上げた著者の力量はたかく評価されます。ゆえに本書は、日本イギリス哲学会賞にふさわしい著作であると判断します。

選考委員(50音順)
坂本達哉(委員長)、佐々木拓、太子堂正称、濱真一郎、舩木惠子

受賞者の言葉

第3回日本イギリス哲学会賞受賞者 森達也会員

このたびは日本イギリス哲学会賞という大変栄誉ある賞をいただき、まことに嬉しく、また有難く存じます。審査のご労をお取り頂いた選考委員の方々、ならびに学会理事および事務局の皆様には、心より感謝申し上げます。

受賞のお知らせを頂戴した際には、にわかには信じがたい気持ちでした。というのも、これまで同賞が贈られた堂々たる著作と比べると、『思想の政治学』はやや異質と申しますか、著作としての統一感に欠けることに、本書をお手に取ったことがある方はお気づきだと思うからです。本書は20年にわたるわたくしのバーリンに関する研究の集成であり、それゆえ、その間の国内外におけるバーリン研究の展開と、わたくし自身の知識の蓄積に伴う執筆姿勢の変化が大いに反映されています。モンテスキューの『法の精神』やブラームスの第一交響曲を特別な例外として、あまりに長く温めた料理(イギリスではよくお目にかかりますが)は食するに堪えないのが常でありまして、もし本書が少しでも風味を保っているのであれば、それは単に、バーリンのお気に入りの ‘crooked timber of humanity’ という言葉が示すように、紆余曲折を経たもののほうが「人間味」がある、ということなのかもしれません。

いわゆる英国哲学の本流からはかなり距離のある人物に関する研究発表に、いつも寛大さと忍耐をもって耳を傾けてくださった会員の皆様に、あらためて感謝申し上げます。日本イギリス哲学会はわたくしを大いに育ててくれた学会であります。今後ともご指導ご鞭撻のほど、お願い申し上げます。

第14回日本イギリス哲学会賞選考結果

選考委員長 犬塚 元(法政大学)

日本イギリス哲学会奨励賞選考委員会(委員・岩井淳、久米暁、中澤信彦、児玉聡、犬塚元)は、日本イギリス哲学会奨励賞の候補となった論文につき、問題設定の独創性、論理展開の明確さ、結論の説得力等の観点から厳正に審議いたしましたが、2021年9月19日付けで、本年度は該当作なしとの結論に達しましたので、ここにご報告申し上げます。

第47回総会・研究大会について

第47回総会・研究大会は、2023年3月25日(土)・26日(日)の両日、愛知教育大学にて行われます。同大学には、今村健一郎会員が所属され、大会開催校責任者としてご尽力いただいております。

1日目には、総会、会長講演、シンポジウムⅠ「「スミスの臆見、私たちの偏見」―生誕300周年記念」 (司会:青木裕子・森直人、報告者:重田園江・太田浩之)、2日目には、個人研究報告(6名予定)、セッション、シンポジウムⅡ「「J・S・ミル研究の現在」-没後150周年記念」 (司会:成田和信・舩木惠子、報告者:小沢佳史・鈴木真・村田陽)が予定されています。また、1日目の夕刻に懇親会が開催される予定です。

詳細については2023年2月のプログラム送付の際にご案内いたします。

事務局より

ご挨拶

山岡龍一新会長のもとで第24期日本イギリス哲学会事務局が発足いたしました。はじめに山岡会長、事務局長の私、矢嶋と共に事務局を担ってくださるお二人の先生を紹介いたします。庶務幹事をおつとめ頂くのは中央大学の竹中真也先生、編集幹事をおつとめ頂くのは慶應義塾大学の山尾忠弘先生です。竹中先生は本会でもすでに何回かシンポジウムやセッションにご登壇いただいているバークリの専門家です。山尾先生は年齢的にはまだ若手に分類される新進気鋭のJ・S・ミル研究者です。発足から早くも半年がたち、お二人の幹事の先生方には大変ご活躍を頂いております。理事会の先生方、とりわけ第23期の戒能通弘前事務局長には様々なご助言を頂きながら進めさせていただきたく存じます。至らない点などご教示の程お願い申し上げます。また今期の事務局は来期に控える設立50周年記念に向けての準備の開始を任務の一つとしております。先日メールにてアンケートを送らせていただきました。会員の皆様には今後何かとご協力をお願いする機会もあろうかと存じますがどうぞよろしくお願い申し上げます。(矢嶋直規)

会費納入のお願い

本会の会計年度は1月から12月となっております。会費未納の方は、本年12月末までに振込をお願いいたします。年会費は6,000円です。2年分(12,000 円)以上の未納の場合には、来年3月末の学会誌の送付が停止され、役員選挙の選挙権・被選挙権を失います。5年分(30,000 円)滞納の場合、自然退会となります。期日内に納入いただきますようお願い申し上げます。